はしゃぐ沙羅を追いかけやって来たのは都内のとある演劇ホール。
沙羅がチケットを入口で渡し、チケットと引き換えにパンフレットを受け取る。
パンフレットには役名と役者名が書かれていた。
そして、演出家の漣さん、主役の悠翔君の写真と顔写真が添えられている。
柚稀……名前だけは載せられてるんだ…。
沙羅とホールに向かって歩いていると、劇団員らしき人達が前から何人か歩いてきて、その中には朱璃さんや悠翔君もいた。
そう言い、悠翔君の後ろにいた人を前に押す。
柚稀はカツラを被っているのか、特徴的な長い前髪が無く、いつもなら見えない左目が見えていた。
あの文化祭の劇みたいに普段とは雰囲気が違う。
いつも前髪で隠れてる部分に人に見せられないような傷があるとか期待してたのになぁ…
劇団員の言葉に柚稀がキョトンと首を傾げる。
男声のように低く通った声。
微かに微笑みその場から柚稀が去る。
その様子に劇団員は当たり前のように苦笑いを浮かべていた。
珍しくクスッと笑い、悠翔君も柚稀のあとを追いかけるようにいなくなる。
劇団員がいなくなり、私達はホールの座席へ。
既に多くの人が席に座り、その始まりを楽しみに待っている。
始めを知らす開演ブザーがホールに鳴り響く。
主演の悠翔君…いや、ジョバンニが舞台上に現れて話し出す。
文化祭なんかとは比べ物にならない…
Infinity劇団はやっぱり本物なんだ…!
全ての人が輝いていて、それでも主演が目立つ。
場面が変わり、銀河鉄道に乗ったジョバンニの前に現れたカムパネルラ。
誰が演じるかを公表されなかったカムパネルラ。
ジョバンニとカムパネルラが話し始めると、周りの席からパンフレットを確認する紙の音が沢山聞こえてきた。
男っぽい低い声だけど、優しい声色がカムパネルラの性格を表している。
その時、私には1つの疑問が思い浮かんだ。
どうして、頭も良くて運動も出来て、こんなに才能があるのにあんなに消極的なんだろう…。
パッと見は明るい性格で何事にも積極的なイメージがあるが、実際は違う。
柚稀は常に周りに合わせているだけな気がする。
……まぁ、今はいっか。
Infinity劇団の劇を見れることなんて滅多に無いんだから楽しまないと!
まるで観客も銀河鉄道に乗ってるような気分になれるInfinity劇団の"銀河鉄道の夜"。
このとき、私はこの劇がきっかけで柚稀がテレビで大きく取り上げられることになるなんて知る由もなかった…。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。