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第151話

2学期 _ 兎に込められた意味 Ⅰ
柚稀が熱を出して倒れた放課後。

全く止む気配のないザーザー降りの雨の中、絶交宣言をした俺は"漣"と書かれた表札の家の前に傘を差して立っていた。
倉科 拓哉
……何でここにいるんだろ…
帰る前、俺は琉希に呼ばれ、ガチ切れされた。

琉希は本気で怒っていて、殴り掛かりたいのを抑えているようにも思えたほどだ。

キレた原因はここ最近の俺周りの関係で多分、柚稀が倒れたことが引き金になったのだろう。

かなりボロクソに言われ、最後は…

「苦しくさせるなら一生近付くんじゃねぇよ。」

…って。

他にもまだ言いたそうだったけど、俺が聞きたくなくてその場から逃げた。

何処に行くか考えず、気付いた時には今の場所。
会うことが出来そうだったら少しだけ…


インターホンを鳴らして少し待つと、扉が開いて中から柚稀の弟である悠翔が顔を出す。
漣 悠翔
倉科先輩?あ、俺、何か忘れ物しちゃいました?一応、全部回収したつもりではいたんですけど…
倉科 拓哉
いや…忘れ物はないんだけど……
漣 悠翔
…もしかして姉さんですか?
倉科 拓哉
……まぁ…
漣 悠翔
寒いですし、入ってください。
悠翔が快く家の中に入れてくれ、俺はリビングへと案内される。
よく考えたら、初めてこの家に入ったな……
庭から回って、柚稀の部屋の窓のところに行くことは何回もあった。

でも、中に入ったことは無いし、部屋もカーテンが閉まっていることが多くて知らない。
漣 悠翔
姉さんなら部屋にいるんですけど…
倉科 拓哉
けど?
漣 悠翔
話せる状態かどうか…
椅子に座りながら表情を曇らす悠翔。

悩むように頭を抱えるが、スグに顔を上げる。
漣 悠翔
…姉さん、学校から帰ってからずっと母さんに貰った兎のぬいぐるみと喋ってるんですよ。
倉科 拓哉
兎のぬいぐるみ…
『誰もいない一人の部屋でずっと兎に話しかけてたから何か気になった。』


小学校の頃、颯斗に柚稀を連れてきた理由を聞いたらそう答えたことがあった。

飼ってる兎なら特に何も思わないけど、それがぬいぐるみとなれば話は別だ。
漣 悠翔
あの日から話すようになったんです。でも、倉科先輩達と会ってからは回数は減ったんですよ。中学も幼馴染のおかげで乗り切って……だけど、母さんが死んでからまた定期的に始まりました。
悠翔は困ったように溜息を吐いて、再び下を向く。
倉科 拓哉
…柚稀の部屋、何処?
漣 悠翔
リビングを出てずっと左、1番奥です。
倉科 拓哉
ちょっと様子見てくる…。
言われた通りに行くと、1番奥の扉の前に着く。

扉の前にいるだけなのに何か重苦しいものを感じ、俺は開けるかを悩むも思い切って開けた。

すると…
空閑 柚稀
何でだろうなぁ……俺が考え過ぎ?んなことない…普通に事実だろ…
明るい部屋の中、ベッドによっかかりながら柚稀は兎のぬいぐるみと会話していた。

普段とは違って下ろされた髪は床に着き、紺に近い青の瞳はぼんやりと兎を見ている。
空閑 柚稀
えぇー…誰が友達か?そんなの…
倉科 拓哉
柚稀。
空閑 柚稀
……。
俺が名前を呼ぶと柚稀が黙り、横目で俺を見る。

その目には感情が全く無く、初めて会った時を思い出した。

しばらく動かなかった柚稀だが、何か思いついたのか俺の方を向くと兎を俺に向けて持ち、俯いたまま手を動かし始める。
空閑 柚稀
「君にとって柚稀は何?」
そう言い、柚稀が動かす兎は首を傾げた。
空閑 柚稀
「クラスメイト?都合のいい女?バスケ部のマネージャー?それとも…信頼している"友達"?」
手をパタパタと動かしながらそう俺に尋ねる。
空閑 柚稀
「答えてよ、君にとって柚稀は何?」
繰り返される質問。

柚稀は俯いたままで兎だけが元気に動く。

俺は回答を探しながら部屋に入り、扉を閉めた。

そして、柚稀の向かいに座ったところで俺は答えを口にする。
倉科 拓哉
友達…だと俺は思っている。
空閑 柚稀
「……そう。じゃあさじゃあさ?君は何で友達だと思ってる柚稀や颯斗達から距離を置くの?」
倉科 拓哉
それは…
空閑 柚稀
「それは?」
柚稀はずっと下を向いている。

前髪で顔色をうかがうことが出来ない。

でも、何となく。

何となくだけど機嫌が悪いことだけは分かった。
倉科 拓哉
……脅されてた、から…
空閑 柚稀
「……夕凪沙羅ちゃん?」
倉科 拓哉
ああ…
空閑 柚稀
「なんて?」
倉科 拓哉
柚稀が錬か聞かれて、静かに暮らしたそうだねって…直接的では無かったけど…あいつのことだから、あそこで断ったら錬って広める気がした。
空閑 柚稀
「だから、断らなかったの?」
倉科 拓哉
そう。
空閑 柚稀
「……。」
腕を下ろして柚稀の膝の上に座る兎は黙る。

10秒ほどの沈黙の後に兎は再び動き出した。
空閑 柚稀
「次が最後の質問だよ。」
倉科 拓哉
分かった。
すると、兎から柚稀の手が離れる。
空閑 柚稀
君はどうしたい?
顔を上げた柚稀は俺の目を見てそう言った。

俺を見ているその目には何も映っていない。

ただ黒と青だけが俺を見つめる。
『また…いつか遊んでくれる?』

『当たり前じゃん!何回でも遊ぼ!ね、拓哉?』

『うん。何回でも会えるよ。』

『本当?消えたりしない?』

『しないしない!俺も拓哉もずっといる。』

『中学は違うけど、高校が同じなら ───── 』
卒業式の後を思い出して言葉にする。
倉科 拓哉
……お前らの隣にいたい。
『毎日、この3人で笑おうよ。』
空閑 柚稀
……その言葉が聞きたかった。
倉科 拓哉
……。
空閑 柚稀
拓哉、二学期の間だけ我慢して。二学期が終わったらまた3人で仲良くバスケをやろうよ。
倉科 拓哉
え?いや、それだと柚稀が…
空閑 柚稀
映画の宣伝が始業式の日にある。まぁ午前にあるんだけど…そこで黒崎錬だって堂々と言ってやる。そうすれば、夕方には速報で入ってんだろ。学校は午後から来るつもりだからその時に学校でも言ってやる。
兎のぬいぐるみで遊びながら柚稀は昔みたいに笑う。
空閑 柚稀
約束、守ってくれただけでも嬉しいよ…確かに平穏な日々は好きだけど俺は拓哉と颯斗の方が好きだから。
柚稀がそう言うと、兎は跳ねながら両手を上げてバンザイをしていた。
空閑 柚稀
…拓哉、ありがとう。