第51話

涙の理由 1
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2021/06/09 15:29
~あなた‘s  side~



あれから何とか家に帰ってきて、



何もする気が起きなくて、ただリビングのソファに座ってた。

何だろ、時々こんな風に心が大きな落とし穴に落ちることがあって。


最近はなかったんだけど、今回はひどすぎた。



毎日が楽しかったから、余計になんだろうけど。



今日は1日撮影を見学するつもりで予定はあげてたから、


急ぎの仕事もないし



このまま寝ちゃおうかな。

そんなことを思ってたら、



家のチャイムが鳴った。



…出たくないな。


居留守使おうかな…なんて思って、何度も鳴るチャイムを無視していたら、
あなた、おるの? あなた?

ドアをたたく音とのんちゃんの声。

あなた、おるんなら、顔見せてや

…何でのんちゃんが?


慌ててドアを開ける。

良かった、会えた~。

そこにはほっとした顔をしてるのんちゃんがいた。

なぁ、ちょっと話せえへん?

…………………………………………………………………………………………
何かあったんか?

家にあがり、ソファに座ったのんちゃんが切り出す。

あなた
…何もないよ

ホントに何もないもん。

何もない顔やないやろ。
俺にも言えんこと?

のんちゃんの優しい声と、優しい眼差しに



凝り固まった心がほどけてく気がした。

あなた
急にね、怖くなったの。
あなた
今日ね、レンズの向こうで演技してるみんなを見てたら
あなた
すごくキラキラしてて
あなた
別世界の人なんだって感じちゃって

途切れ途切れの私の話を、のんちゃんは黙って聞いていた。

あなた
ここにいて、仲良くしてもらってることが
あなた
なんだか申し訳なく思えてきて
あなた
そしたら、急に苦しくなっちゃって

また涙がこぼれそうなのを我慢して俯いてたら

アホやな、あなたは

見上げると、のんちゃんは優しく微笑んでいて

何で勝手に壁作るん?
俺らはあなたのこと、仲間やと思っとるし、別の世界の人間になんて、なりたくないわ。
そんな風に思わんといて
俺ら、みんなあなたのこと、好きやねんから

のんちゃんの言葉は優しくて、力強くて、心に染み込んでいく。



ぐちゃぐちゃになってた心が少しずつ流れ出してくのを感じてた。


泣いてもええよ、泣いて全部流したり。
あなた
泣き顔、見られたくないもん。

泣きそうなのを必死に我慢する。

顔、見なきゃええんやろ?

のんちゃんはソファの下に胡座を書いて座って

ここ、座りぃ。

自分の横をポンポンとたたく。


言われるがままに座ると、のんちゃんは私の頭を自分の胸元に引き寄せた。

これなら、顔は見えへんよ。

そりゃ、顔は見えないかもしれないけど…


ちょっと困ってたら、
泣く時は1人で泣いたらあかん。
余計に辛くなるやろ

のんちゃんの声が優しくて、抑えてた涙がこぼれた。

その間、のんちゃんはずっと子どもをあやすみたいに、背中をトントン叩いてて、



温もりが優しくて



小さな子どもみたいに大声をあげて泣きじゃくってた。

私、ここにいてもいいんだ。



そんな安心感は心のつかえを取り除いていった。

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