全員が集まるファーストシーンを撮り終わって戻ったら、あなたが泣いてるのが見えて、
慌てて駆け寄っていた。
幸い、他のメンバーはまだ別のシーンがあって、気づいてないみたいや。
確かにそうなのかもしれないけど、
その涙には違和感があった。
感動して泣いてるんやったら、そんな悲しそうな顔するわけないやろ。
今すぐ抱きしめたくなるくらい、苦しそうに泣くことないやろ。
苦しい何かを抱えてるんやったら、頼って欲しいのに。
俺じゃあかんのかな。
伝えたい言葉はたくさんあるのに、口に出せへんでいた。
このまま1人で帰せるわけなくて
何とか引き留めたくて
とっさにあなたの手首を捕まえてた。
必死やった。
このまま1人で帰せるわけないやん。
でも、あなたちゃんは
そうつぶやくと、俺の手を外して出ていってしまった。
俺は小さくなる後ろ姿を見送ることしか、できんかった。
撮影を終えたメンバーが戻ってくる。
俺はスタジオの角に神ちゃんを連れ出した。
って、神ちゃん責めてもお門違いなのは分かってるんやけどな。
俺が考え込んどるの見て、照史が声をかけてくれる。
俺じゃ支えてあげられんのかな。
あの辛そうな泣き顔が頭から離れんくて。
どうしたら、いつもみたいに笑ってくれる?
ただそれだけを考えてた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!