第62話

『いつもと違うけど』AS 💛 ②
725
2022/07/10 03:37

「行ってきまーす…」


ひぃくんは今日は公休日

だけど疲れがたまってるのかまだまだぐっすり

ここ最近火災多かったもんなぁ…


私はそんなお疲れのひぃくんを起こさないようにそっと家をあとにした。

「おはよ」

「おはようございます」

「昨日照と盛り上がった?」

「はぁ?!」

「おぉ、怖!!」

「ほんと、そのうち訴えますよ?」

「ごめんて~、腐れ縁なんだしこんくらい許してくれよなー、」

「どこが腐れ縁ですか!」

「え、ここ、」

「ねぇ……もういーや、とにかく、仕事しますよ!」

「へいへい」


会社に着くなり突っかかってくる深澤先輩

これは高校時代から変わらない彼の癖

ひぃくんに用があっても絶対に話しかけてくる人
おかげでひぃくんとまともに話せたことがあるのはないかもしれない


まぁでも、そういうことを除けば全然いい人!!
あ、謎にモテるとこはなんか腹立つけどね…!!!



ジリリリリリリリ


「なんだなんだ?!」


突如響き渡る火災報知器のベル


「大変だ!!1階の社食で火事が起きた!!」

「えぇ!!」

「うそぉ…」


周りも突然の出来事に騒然として慌ててる人もいる。

当然だ。自分のいるビルで火事が起きてるんだもん

それに出入り口は1階にしかない、つまり、社食と同じ階だということ。


「深澤先輩、」

「落ち着いて、大丈夫だから……皆さん!落ち着いて行動しましょう!!いつもの訓練通りに動けば平気です、社食で火事と言うことなのでF経路で行きましょう!」
こういうときの冷静沈着な深澤先輩、本当に尊敬する

自分も怖いだろうにそんな素振り見せないでみんなを誘導している

こういうとこかっこいいよなぁ



「ほら、お前も早く!」

「あ、はい、」




普段から防災訓練を行っていたため、思っていたよりも着々と避難することができた


「ちょっと待って」

「おい、何してんだよ、火そこまできてんだぞ」

「っ、でも!!そこに逃げ遅れた人がいるんです!!」



火はすぐそこまで来ている

でも私の目線の先には逃げ遅れた人がいる

崩れた棚に足を挟まれて身動きがとれなくなってる人が……


「けどもう無理だよ!俺だって諦めたくねぇけど、」

「…です」

「は?」

「嫌です!!絶対に見捨てません!!いつの日か先輩私に言いましたよね、「見て見ぬふりはできねぇんだよ」って!!」

「おい!!」



無我夢中で走った

煙で目が痛い

でも、目の前にいる人を助けなきゃ、その思いでいっぱいだった

だって、ひぃくんにも言われてきたから

「自分に限界が来るまでは絶対に見捨てない、救えるかもしれない命は絶対に救うんだ」って


だから私も、ひぃくんと同じように、


「大丈夫ですか、っごほ、」

「…たすけ、てくれ…」

「今、棚、どけますから!」


とは言ったものの女の私1人ではびくともしない


「お前カッコつけてんじゃねーよ、ほら、せーので押すぞ」

「深澤先輩!!」

「せーの!!」

「…っ、」

「行ける、もう少しだ、っごほっ、」

「頑張れ、私、…ごほ、ごほっ、」




ズズ…、ガシャン


「どけれた!!」

「ありがと、ございます……」

「あんまり喋んないで、俺が担ぐから、ほら、背中乗れますか?」

「すみません…」

「あなたの下の名前ー、早くいくぞー」

「っ、はい、」


助けられた、よかった…


ガシャンッ、ガシャッ、


「わっ……」

「あなたの下の名前ー!!!」

「深澤、先輩、」



逃げようと思って走ってたら階段に繋がる通路が瓦礫によって塞がれてしまった

深澤先輩たちは人足先に階段まで行けたからよかったけど……

どうしよう、苦しい、


誰か、助けて…


「ひぃ、くん……」


─────



……、……!あなたの下の名前!!


あれ、誰かが私のことを呼んでいる、


誰、なんだろ……



『あなたの下の名前!!!』

「んっ……ひ、ぃくん、」

『あなたの下の名前!!…』

「ひぃく、くるしぃ、」

『…よかった、ほんと、よかった…』

「ひぃくん、どうして、」

『ビルのなかで倒れてるお前を俺の仲間が助けてくれたんだよ』

「そう、だったんだ」

『…バカ、心配しただろ、』

「私、頑張ったんだよ(笑)、ひぃくんが頑張ってるから」

『…っ、ほんと、無事でよかった、』

「あなたの下の名前ーー!!!」

「深澤先輩、」

「ごめん、置いてって、上司として不甲斐ない…」

「平気ですよ」




あとから聞いた話、ビルのなかで気を失っていた私を消防士さんが助けてくれたらしい

発見があと5分遅かったら危なかったって



「それよりも!あの人は!」

「骨折で済んだってさ」

「よかった…」



命の重さについて今回の件で改めてわかった


大切な人を守るって、そういうことだったんだなって



“『…あー、ほんと、よかった』”

“「ひぃくん、私生きてて幸せだよ」”

“『俺も幸せ』”

“「私、頑張ったから褒めてくれる?(笑)」”

“『もちろん、』”

“「ありがとう、大好き」”

“『俺も、大好きだよ』”
どこで何が起きるか分からない

もしかしたら今隣で起きるかもしれない


そんな予測不能な問題に立ち向かう人がいる


事件が起きた日は“いつもと違うけど”思う気持ちはみんな一緒

─ 助けられる命は、助けたい ─



end.



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