流石に長居しすぎるのは良くない、そう言った僕に監督生達は根気強く説得を続けてくれた。
「危ないんじゃないか」
「まだ早いんじゃないか」
「転寮した方がいいんじゃないか」
僕はその一つ一つに「大丈夫」、それだけを返す。
あの小屋にいる間、フロイドと会話をしたことを話すと、彼らはあからさまに眉をしかめていた。
多分、犯人がフロイドだって言いたいんだろう。
別に酷いことはされていないし動機は全くわかっていない。何よりも証拠がないだろうと首を傾げ苦笑してみせるとみんなは困ったように頭を掻いていた。
青かった空も橙色と夜の紺が混ざった不思議な色に変わる時間。皆が自寮へと向かう時間。
悶々とした空気を嘲笑うかのように清々しく空に広がる雲の下、僕は笑った。
帰り道。と言っても鏡の間で各鏡に入っていくだけだが、今日はその一瞬がいやに長く感じる。
生暖かい水に浸かる感覚。
懐かしい故郷のそれと似た潮の匂い。
たまには実家に顔出さなきゃな、なんて考えながら重い足を前へと突き出す。
口では強く出たものの本音としては帰りたくなかった。
だって、怖いじゃないか。
考えてみたら喧嘩した後初対面だぞ?
どんな顔をすればいいのか分からないし。
相手が僕を見てどんな顔をするのかさえ想像出来ない。
悩むことは悪いことだ、なんて言わない。
だけれど今は悩んでも仕方が無いのもわかっていて。
ああ、また背が曲がっている。
意味もなく目を泳がせる癖が治らない。
知らない知らない。
気にせずノブを握ればいい。回せばいい。
僕が気にしたら終わりでしょ?
それならこっちが吹っ切れてやればいいんだ。
フロイドがなんなんだ。
別に怖くなんてない。
アズールが、ジェイドが、僕に何をしたって言うんだよ。
何もしてない。
何もされてない。
そうだ、僕には一切危害を加えないのが彼らじゃないか。
──たった四文字。一瞬で終わる事。
短くて、それでも誰かと繋がっている証拠になり得る魔法の言葉。
『』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。