第136話
ようこそ、こちらへ
目的地である■■■公園の入り口につくと
すでに数人の友人達が集まっていた。
アキトはまだついていないようだ。
━━女友達としばらく話していると
遅れてアキトがやって来た。
仲間の冗談に軽口を返すアキト。
学校で見慣れている制服姿とは違い、
私服の彼はいつもよりさらに
カッコよく大人っぽく見える。
ミカが見惚れていると
アキトが近くにやって来た。
《肝試し》というからには
1人か2人ずつで順番に
公園をまわるのだろうと思っていた
ミカは拍子抜けしてしまう。
だったら初めから《肝試し》なんてせず
《カラオケ》をすればいいものを。
そう思ったが
せっかくアキト達男子が計画したのだ。
水をさすことは言わない方がいいだろう。
早速公園の中へと
入っていっている仲間達の後を
ミカとアキトは手を繋いでから追った。
◆◇◆◇◆◇
公園の中は街灯も多く
足もともハッキリ見え
夜でも問題なく歩けた。
けれどやはり
昼間の公園と《何か》が違う。
聞いていた通り
公園内には
ミカ達をのぞいて全く人影がない。
昼間は明るく賑やかな公園が
不気味なほど静まりかえっている。
仲間達と一緒だから今は良いが
1人でこんなところに来るのは無理だと
ミカは身震いした。
公園内に生えている木々の陰から
得体の知れない者達が
自分達の様子をうかがっている
気がしてならない。
空気が重く、
息がしづらいのは
気のせいではないはず。
霊感なんてものはないミカだが
この公園は間違いなく《何か》がいるのを
感じる。
1人の男子生徒が
ニヤニヤしながら得意気に話し始めた。
芝居がかった低い声で言うと男子生徒は
両手を顔の横に持ってきて隣の女子生徒に
「があっ!」と吠えてみせる。
吠えられた女子は
呆れたように「バッカみたい」と言い
そちらを見向きもしなかった。
《怖い話をしていると幽霊が集まってくる》
誰から聞いたか、
それともテレビで言っていたのか。
こんな場所で怖い話をすると
それが現実になってしまいそうで。
ミカはアキトの手をギュッと
握りなおす。
頼りになる恋人に
ミカが身を寄せようとした時だった。
突然1人の女子生徒が大きな声を出し
今まで歩いてきた道を
物凄い勢いで逆走し始める。
皆、彼女が見ていた方へ
視線を向けた。
その場にいた全員が悲鳴をあげ
一斉に逃げ出す。
夜の11時を過ぎた公園に
幼い少女が1人ポツンと立っていた。
普通に考えれば少女がそこにいるのには
色々と理由があるのかもしれないのだろうが、
この公園で夜に幼い少女1人というのは
気味が悪すぎる。
まず最初に《幽霊》だと考えてしまうのは
無理もない。
ミカも皆と同じ方向へ慌てて走ろうとするが
足がもつれて倒れてしまった。
手を繋いでいたはずのアキトの姿がない。
見れば彼は倒れたミカを置き去りにし
1人先へと走っているではないか。
うつ伏せで倒れたままのミカの後ろから
足音が聞こえてくる。
取り残された彼女へと
《非日常》はゆっくりと確実に
近づいて来ていた。