「おい、お前家こっちじゃないだろ?どこまでついてくるんだよ」
蒼君の家のすぐ近くまで来ると、蒼君は私達の方へ小走りに近づいてきてそう言った。
「蒼…お姉ちゃんは助けてくれたんだよ」
蒼君はすっかり困り果てた表情で莉緒ちゃんを見つめた。
「莉緒はそもそもなんでここにいるんだよ?」
確かにそれは私も気になった。小学生の莉緒ちゃんは家とは正反対の学校に1人できていたなんて不思議だ。
「いえ、お父さんしかいない。嫌だ…」
莉緒ちゃんがぽつりと吐いたその言葉に私は違和感を覚えた。
さっきまでの笑顔はすっかり消えて、莉緒ちゃんの気持ちはどうやら曇り。
「はぁ、そっか」
蒼君はそういうとしゃがみ込み、莉緒ちゃんの目の高さに合わせる。
「ん」
優しく手を差し出して、莉緒ちゃんの手を取る。
「色々ありがとな」
そう言うと照くささを隠すかのように横に少し流した前髪を、さっと撫でる。
夕日に照らされて茶色く見える蒼君の綺麗な髪がほんの少し莉緒ちゃんと似て見えて思わず微笑む。
「なんかお前、表情変わった?」
訝しげに蒼君は目を細めるが私は何も言わずに首を振る。
「ううん、そんなことないよ。きっと」
蒼君はそっかと言い莉緒ちゃんに視線を戻す。
「莉緒、お姉ちゃんにお礼は?」
莉緒ちゃんは黙って私の方を向くと、少し黙っていたかと思えば口を開いた。
「お姉ちゃん名前は?」
真剣そうな眼差し。
「私は夏乃、改めましてよろしくね莉緒ちゃん」
莉緒ちゃんは大きく頷いて笑った。
「夏乃ちゃん、ありがとう!またね」
そう言うと小さな手を振りながら蒼君と一緒に家へと歩きはじめた。
静かに沈んでいく夕日が、2人の影を長くどこまでも道を描いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。