「蒼君って、ピアノ上手に弾くよね…凄いよ」
蒼君には敵わないなぁとあらためて実感した。
私なんかじゃ到底及ばないや。
「え?」
突然莉緒ちゃんが小さな声で言った。
私は不思議に思い、莉緒ちゃんを見る。
「蒼、ピアノ弾くの?」
「え?」
どう言う意味だろう、なんでそんな質問…と口に出しそうになるけれどグッと堪える。
莉緒ちゃんの嬉しそうに笑う表情は、さっきまでの硬い表情とうってかわり向日葵を連想させるほど明るかったから。
「うん、蒼君はねとっても上手にピアノを弾くんだよ!」
私も莉緒ちゃんの笑顔から貰った勇気を胸の中に大事にしまい、精一杯溢さないように包み込む。
心が泣いていたんだ、こんな温かい気持ちになれることを、もう一度笑顔でいたいって思えることを…
スッと心が晴れたかのように心地がいい。
まるでこれは天気雨なんだよね?莉緒ちゃん。
莉緒ちゃんはほっぺたに両手を当てて嬉しそうに微笑んでいた。
そっか、蒼君はこんな温かい妹と一緒に育ってきたんだね。
“控えめな顔”
今思えばわかる。
莉緒ちゃんの表情を見てきた蒼君は、私の作り笑いに気づいていたんだね。
あれ、私今作り笑いって…
なんでだろう。
私に取ってはこれが本当の笑顔、仮面なんてない、どこにもないはずなのになんでだろう?
今までの自分が偽物の気がして。
「どうしたの?」
莉緒ちゃんの声ではっとする。
大丈夫、と言おうとしてためらう。
大丈夫ではない、でも…
「ありがとう、莉緒ちゃん。私莉緒ちゃんのおかげで少し元気になったよ‼︎」
精一杯の感謝を、今私にできるだけのことを
したいと思ったから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!