移動教室を済ませ、化学室で自分の席に座る。
化学室は前のクラスが授業があったらしく換気扇が回っていて、肌寒かった。
「化学室にも暖房つけろよ」
自分の向かい側に座る蒼君が腕をジャージの中に引っ込めてつぶやく。
「化学室に暖房は厳しくない?」
冷静に突っ込んだつもりだったが蒼君は「そんなことねぇよ」と胸を張って答えた。
別にそんな答えを求めているわけじゃないんだけど…
次は科学だから西條先生か。
やだな、なんて口に出すのも面倒臭くなるほど毎回思っているし、西条先生に限った話じゃないから何も言えずただ授業開始のチャイムを待っていた。
「なんでそんな控えめな顔してんの?」
突然蒼くんが私の顔を真っ直ぐに見てそう言った。
「え?」
控えめな顔ってなに?
私が知らないだけなのだろうか、控えめな顔なんて言われたことはなくはっきり言って私は今どんな顔をしているのかすらわからない。
「控えめな顔ってなに?」
素直な質問だ。
「控えめな顔は控えめな顔だよ」
蒼君は意味のわからない言葉を繰り返した。
同じ班だった七実ちゃんと白石君は私たちの会話を聞いてくすくすと笑っていた。
もう、ほんと意味わかんない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。