チャイムが心地よく廊下に響く。
私は廊下の窓から、海を眺めた。
丘の上中学校は丘の上にあって、下の方に降りていくと街がある。
街といっても田舎だから大した街ではない。
そして自慢がこの海だった、目から見えるには青い海。だけど本当は透明なんだって知った時は実際に海の水をコップに取ってみたりしたっけ?
私は目を閉じて遠くから聞こえる波の音に耳を澄ました。
その中にピアノの音が混ざっているのを私は聞き逃さなった。
私はピアノの音を辿って音楽室の前にたどり着いた。
「蒼君?」
私はピアノを弾いている人物が蒼君であったことに目を疑った。
クラスではうるさく、ピアノなんて弾かなそうな印象だった。だからもっと真面目そうな人が弾いていると思っていた、なのにまさかの蒼君?
私は壁を伝いその場にずるずるとしゃがみ込んで耳を澄ませた。
上手いかと聞かれるとそうでもないけれど、蒼君が弾くピアノはどこか透明に聞こえた。
蒼君は楽しくなさそうで、聴いている私は何か物足りない。
色が無い…
蒼君はただつまらなそうに、決まった鍵盤を優しく触れて振動を音として透明なメロディを奏でている。
『どうして何回もミスをするの?』
突然頭の中でジンジンと私の嫌いな音が響き渡り、頭の内から叩かれているような頭痛に襲われた。
『指使いを直しなさいといっているでしょう、どうして言う事を聞かないの』
思い出したく無い冷たい記憶…
振り上げられた鋭い手は私の頬に見事に命中した。
痛いと言うよりかは冷たい、ドライアイスを頬に押し当てられているかのような感覚。
何度死ぬかと思ったか…
私は両手で両耳を塞ぎ手に絡まった髪の毛をグッと掴んだ。
私は透明な音を背にその場から逃げ出した。
蒼君に音を聞いていると何故だか思い出してしまって苦しいんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。