保健室のドアが閉まる音。
蒼君が歩いて近づいてくる音。
そして、
ベッドの横に立ち、ゆっくりとカーテンを開ける音。
「夏乃、」
両手を目に当てたまま泣いているのが見えないよう、顔を背ける。
蒼君が近くの椅子に腰をかけたのがわかった。
ギシッとパイプ椅子の音が聞こえた。
「夏乃、大丈夫?さっき急に倒れて…」
「知ってる」
「…」
蒼君が黙ると妙な空気が漂った。ただそれが耐え難くて、私は蒼君に聞くまでもないことを聞いた。
「蒼君さ、私のこと嫌いでしょ?」
「え…」
「こんなの聞くまでもないか、フッなにやってんだろ私」
「蒼君が嫌いなのはわかってる。だからといって私が蒼くんのこと嫌いなわけじゃないよ?」
蒼君はなにも言わない。
それを確かめて、私は一度深呼吸をする。
「なんで、ここにきたの?」
「……」
疑問だった。私が倒れる瞬間から、現在にかけて。大嫌いな私になんで構うのか。
ほっとけばいいじゃん。保健室の先生に全部任せれば?なにしにきたの?またダサいとか気持ち悪いとかいうの?
「帰って…帰って、帰って、帰って」
「……」
「別に、嫌いじゃないけど…嫌いじゃないけど。帰って欲しいなら帰るよ。」
そういうと蒼君は立ち上がり、足早に教室へ戻った。
両手を目から離すと、不意に涙が溢れた。
「うっ、うぅ…」
罪悪感でいっぱいだった。
ごめん、ごめん、ごめん…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。