先程思いっきり顔を殴られ、痣になったことで激怒した彼は、杏寿郎に手当てを命じた。そして今現在応急手当をしているところなのだが。
このように私を見て話しかけてくるばかりで、全く手元を見ていない。そんなんでちゃんと湿布を貼れるのだろうか。
いざその人に言われて顔を見た杏寿郎は笑顔で一瞬固まる。何故なら、湿布の位置が痣から圧倒的にずれているからだ。案の定と言ったところか。
杏寿郎は「すまなかった!」と言ったかと思うと、ベリャアアと勢い良く湿布を剥がした。絶対痛いでしょ今の!!
戸惑う杏寿郎の手から乱雑に湿布をぶんどって、ピンと伸ばしてから丁寧に貼り直す。これで痣も治るだろう。
その人は「おう、ありがとうな」と言って優しい笑みを浮かべた。その顔に一瞬ドキッとしてしまったのは内緒だ。
その人は立ち上がると、杏寿郎に用があるからと言って、杏寿郎を連れて部家を出ていった。ちょっと一悶着あったけど、まあこれでよしって感じかな?()
さて、私も部屋に戻ろうと立ち上がって襖に手をかけようとした時だった。目の前でそれが勢い良く横に高速移動した。
予想の斜めどころか直角レベルで上の理由を言ってきた千寿郎に驚愕しながらも部屋を出る。父上はなんとも言えない顔をしながらお酒を一杯啜る。いや、そこにお酒あったんかーい。
一瞬出てきた鳥肌とはさようならしたものの、先程のことが気になっている千寿郎は、甘えるようにして私に抱き付いている。
まあ、子供ながらにそう言う気持ちになることもあるのかな?本人にしか分からないことだけど、今くらいこうしてあげたって問題はないよね。
私は、抱き付く千寿郎の背中に腕を回し、片方の手で頭をポンポンと撫でた。千寿郎は満更でもないような顔をしてそれを受け入れている。この子もまあまあ良い年してるんだけどねぇ…()
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。