パチパチと薪が爆ぜる音を耳にしながら、分厚い本のページを捲る。暖かな談話室で、好きな本を読む。私にとって、心の安らぐ大事な時間。
その筈なのに、今日はどうも落ち着かない。
そしてその原因は…今私を挟むようにして座っている
この燃えるような赤毛の双子だ。
『当たり前だろ?』とでも言いたげな表情で、2人は息ピッタリに返事を返してきた。人の気も知らないような2人のその返事に、私は思わず 深いため息を漏らす。
双子の片割れであるフレッドが、私の肩を抱き寄せて
ジョージを煽るようにニヤリと笑った。
そう言い返し、今度はジョージが私の肩を抱き寄せた。
それを皮切りに、聞き慣れた双子の言い合いが始まる。
背の高い2人が、私の頭上で「いいや、お前だ」「お前が部屋に戻れよ」と口論が続き、そしてどちらかが言葉を発する度、私の体は左右に抱き寄せられ揺らされる。
気にせず本を読もうとも思ったが、視界が揺れる中でまともに読み続けられるわけもなく、そろそろ怒鳴ろうと思った矢先、突然双子が私の顔を覗き込んだ。
息が合ってるのか悪いのか、同じ表情で問いかけてくる2人に、私はまたもや呆れた感情と共にため息を零す。
私が眉を顰めながらそう聞けば、『わかってるだろ?』とでも言いたげな表情を浮かべた双子が、互いに顔を見合せてからこちらを向く。
だいたい返ってくる答えは想像がついている。だって、つい1週間前も似たような会話をしたからだ。多分、今日もまた私をからかって、あの言葉が返ってくる。
予想していた2人からの返答に、私はふっ…と笑った。
フレッドとジョージ・ウィーズリー。赤毛の双子。
この2人が大の悪戯好きなのは周知の事実だ。
フィルチや学校に悪戯を仕掛ける2人。
常に明るく、生徒の話題の中心にいる2人。
そんな2人が、たかが同級生の私相手に興味を抱くわけが無い。ましてや、"好き"だなんて有り得ない。
つまりは、これも彼らの悪戯の延長線に違いないのだ。
そんな言葉をホイホイ信じて調子に乗るほど私も馬鹿じゃない。初めこそ驚きはしたが、今は聞き流す位でいいと学んだ。
そうしてれば、いずれ2人もこの会話に飽きを感じるだろう。そう思っていたから。ただ、私の想像よりも遥かにこの双子はしぶとかった。
このままじゃ、また読書の邪魔をされ続ける。と思い、軽く聞き流すようにそう言って本を閉じる。
すると、立ち上がった私の行く手を阻むように赤毛を揺らした双子が私の前に立ちはだかった。
眉を顰める2人。この告白が冗談でなかったらなんなのだろうか。とでも聞き返したかったが、何となく長引きそうだったので聞く事は止め「そんな事ないわ」と私は再び素っ気なく返事を返した。
いい加減、つまらない態度を取る私の事なんてからかわなきゃいいのに、と若干の呆れを感じながら2人の間を通り、階段の方に足を向ける。
しかし、そんな私の動きを2人は再び阻んだ。
そんなの当たり前だ。真面目に返事を返したところで
『実は冗談だった』なんて言われるのを考えたら、簡単に返事なんか返すわけが無い。
それに、私自身この双子の同級生と言うだけでアンジェリーナや2人の親友であるリーの様に、この2人に詳しい訳でもない。
それはきっと2人も同じで、私の事なんて精々いつも読書をしている静かなやつ。くらいにしか知らないはずだ。そんなお互いが知らない中で「好き」の2文字に信頼もなければ返事をするのも馬鹿らしい。
私の事をからかい続けてるのだ。2人を試すように聞いたところで撥は当たらないだろう。そう思った私は、2人のことを見つめそんな事を聞いてみた。
きっと、2人は考え込み言葉を詰まらせるか
1つ2つくらいの候補が出てきて終わりだろう。
そうなったら『ほらね、どこが真剣?』とでも返してしまえば、今後は私に構う事が無くなるはずだ。
容姿を褒めるのは典型的だ。誰でも思いつく。
やっぱり、この双子は私の事をからかってるだけだ。
止める隙もなく双子によって並べられた言葉に
私は驚き、思わず硬直してしまった。
先程まで平然としていたはずの心臓が少し煩い。
からかっている割には、この双子が言っている言葉に嘘は無い様に見えるし、私の事を知りすぎている。
でも、この双子だ。まだ確信を持つには早い気がする。
再び始まった2人の息ぴったりな言い合いの中で、私の心臓は未だに少し煩いままだった。
さっき双子が言ったことは本当なんだろうか。
でも、何がきっかけで私の事を?
悶々と先の事を考えている間に、2人の言い合いは上手いこと纏まっていたらしく、突然2人の視線が私に向く。
ずっと冗談だと思って聞き流していた2人の言葉。
ただもし…もし、本当に2人が本気なら?
そんな考えがふと頭を過ぎるが、よく考えれば…私はこの2人の事をあまり知らない。確かに嘘でも本当でも好きな所を並べられドキリとはしたが、返事が出来るかと言われればそうでは無いのだ。
本当にこの双子が本気だったとしたら、知らない中で勘で決めたような返事なんて貰っても嬉しくないだろう。
本気なんだとしたら、誠心誠意応えるべきだ。
私が困り顔でそう伝えると、双子は顔を見合せてから同時にニヤリと満足気に笑ってから「じゃあ、いい案がある」とこれまた息ぴったりにそう言った。
1週間か…。短い期間の設定ではあるが、今よりは確実に2人の事を知れるだろう。でも、この2人の言い草で気になる箇所が一つだけあった。
私がそう聞くと、2人は不敵な笑みを浮かべ「心配ないさ」と言って、私の手を片方ずつ握り、顔をぐいっと近づけた。赤毛を揺らした2人の顔が至近距離に迫る。
そんな事を言われ、真っ直ぐ見つめられれば 嫌でも私の心臓は少しばかりドキッと跳ねた。
何処から湧いているのかも分からない2人の自信に、僅かな笑みを零してから「どうかしらね」と返し、私は2人の間を通って「おやすみなさい」と告げてから階段を登り部屋に戻った。
1週間でどちらかを好きになるなんて、有り得るのだろうか?なんて、そんな事を考えながら。
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リクエストで頂いたフレジョの取り合いのお話です!
個人的に書きにくさを感じたので、ご希望に添えるようなお話になっていないかもしれません。申し訳ないありません🙇♀️
2,3話程度で終わるお話だと思います!
いつもと書き方が多少異なりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです🍀*゜
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!