私と彼は、もうすぐ付き合って3年が経つ。
そして、私達は後数ヶ月でホグワーツを卒業する。
私達は元々、毎月記念日を祝うタイプでは無かったが
3年と卒業が重なる節目の年。そんな年の記念日くらいは、まともに祝いたいと思っていた。
だけど、どうやら彼にはもっと大事な事があるらしい。
階段を下り、談話室にやって来た彼の行く手を阻むように立ち塞がって私は首を傾げた。すると、オリバーは少し困り顔で「ごめん…」と謝り言葉を続けた。
「ごめん…」ともう一度謝った彼は、私の横を通り 直ぐに談話室を後にした。
私の恋人、オリバー・ウッドはクィディッチの選手であり、グリフィンドールチームのキャプテンだ。そして今彼は、クィディッチの優勝杯が掛かった自分の引退試合の事で頭がいっぱいらしい。
その引退試合は、奇しくも私達の記念日と同じ日だ。
クィディッチが大好きで、プレイをしている時生き生きとしている彼を好きになった。だから、優勝杯がかかった最後の試合に対し、彼が夢中になるのも理解してる。
チームを引っ張り、優勝に導こうとしている姿は格好良いと思っているし、そんな姿も大好きだ。だけど、最近の彼はいつも試合の事ばかり。話し掛けたとしても「練習のことで…」「作戦を…」って話を流されてしまう。
もしかしから、私達の記念日の事さえ忘れてしまっている様に思えて、我儘だと分かっていても少しだけ寂しさを感じていた。
小さく吐き出した溜め息が、談話室に微かに響く。
すると、談話室の扉が開く音と同時に「あなた…?」と後ろから声をかけられ、私は直ぐにその人物の方へと振り返った。
ハリーは、心配した表情を浮かべながら私の事をじっと見つめた。後輩にまで心配されるなんて、それほど今の私は暗い顔をしているに違いない。
ハリーも、オリバーと同じくクィディッチの選手だ。下手に悟られ心配をかける訳にはいかない。そう思った私は、多少引きつっているかもしれないが「平気よ」と言い微笑んだ。
だがハリーは、私の言葉を真に受ける事無く、更に不安げな表情を浮かべ、何かを探るようにそう聞いてきた。
私はハリーの問いに、なんと答えるか悩みながら「少しね…でも、喧嘩したわけじゃないわ」と控えめに笑いながら返事をした。
ハリーは、必死に言葉を探りながら話し続けた。
きっとハリーなりに、先輩であるウッドと私の関係を心配してくれているのだろう。"有難い"そう思うと同時に、彼の言葉にほんの少しだけ胸が苦しくなった。
全部わかってる。オリバーが今回の試合に、どれだけの思いを持って、どれだけ必死になっているかくらい…。
私は、ハリーの言葉を少しだけ遮るようにそう言って「ハリーも頑張ってね」と微笑み、談話室を後にした。
それから数日後、相変わらずオリバーとまともに話せていない私は、グリフィンドールチームが練習しているであろう競技場へと向かった。
強引なのも迷惑なのも承知の上だ。それでも、ほんの10分でいいから"私達"の事を彼と話したかったのだ。
競技場へ着くと、丁度練習が終わった様子の選手達が箒と共に地上へと降り立ってくるのが見え、私は真っ先にオリバーの元へと駆け寄った。
自分の口から出ていく言葉が、何故かぎこちなくなっているのを感じながら、私は真っ直ぐ彼の瞳を見つめた。
今日こそは、絶対に彼と話す。今まで彼と2人きりのタイミングを狙っていたが、もうこの際 からかいや少しの恥ずかしさなどはどうでもいい。
他の選手がいた方が、むしろ了承してくれるかもしれない。そんな微かな願いを込めたが、彼の口から放たれたのは、今までと変わらぬ断りの台詞だった。
いつもなら、1度目の断りで直ぐに折れていた私だが
今日はそう簡単に引き下がるわけにもいかず、僅かに強ばった表情のまま、彼に半歩近寄り 再び思いを訴えた。
鋭い剣で心臓を刺された。そんな感覚だった。
興奮や高鳴りとは別の、ドクドクと煩く鳴り響く鼓動。
彼の言葉を聞いた瞬間、呼吸の仕方を忘れ、確かに耳に届いているはずの風の音すら聞こえなくなっていた。
視界が歪み、声が震える。
この言葉を告げたら、何もかもが終わってしまう。
そうわかっていても、私の口から出る言葉は止まることなく吐き出され、同時に私の頬を一筋の涙が伝った。
そう告げた私は、その場から離れるべく踵を返した。
もういっその事、消えて無くなりたいと思う程苦しいはずのこの状況で、何故か私は彼に少しだけ微笑んでから、逃げるようにその場を去った。
別れを切り出すつもりなんてなかった。
本当に少し、少しだけで良いから彼と話したかっただけ…にも関わらず"そんな事"そう言われた瞬間、私の心の中で何かが弾け飛び、気が付けば彼の声を全て遮る様に、私の思いが、別れの言葉が、口から零れていた。
彼が本気でそう思っていない。
それがわかっていても、何故か言葉は止まらなかった。
クィディッチの最終試合まで、あと1週間。
生徒の間で賭け事が始まり、いつもよりも賑やかな城の中で、必死に声を殺した私の泣き声が微かに響いた。
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こちらはリクエストではないですが、オリバーのお話久しく書いてないなぁ…と思ったので投稿させて頂きました⋆⸜❤︎⸝⋆
久々に書きましたが、やはりオリバーは口調が迷子になりやすいですね😣 2話完結予定なので最後までお付き合い下さると幸いです🍀*゜
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。