フレッドと過ごす1週間があっという間に過ぎ去り、再び月曜日がやってきた。広い大広間の中で、グリフィンドール寮の席に座り、久しぶりに1人で朝食を取る。
たった1週間だったが、それがあまりに騒がしく楽しかったせいか、これまで平気だった1人での食事も今はなんだか寂しく感じた。
1度小さな溜息を零してから、お皿の中に残った極僅かなシリアルをスプーンで掬い、口へと運ぶ。すると、すぐ隣に誰かの気配を感じ、その人物が「おはよう」と話しかけてきた。少し違和感はあったが、聞き覚えのある声に顔を上げる。
私と顔が合ったジョージは、フレッドと間違えられたのを少し不服に思ったのか、微かに眉を顰めると直ぐに私をからかうようにして笑った。
「隣いいか?」とそう聞いてくる彼に、私は申し訳なさを感じながら「えぇ、もちろん」と微笑み返した。
ジョージはそう言うと、私の目を見つめながら悪戯に笑った。その言葉に少し不安感を抱きながら「わかってるわ」と私が返せば、ジョージは何かを察したように私の隣で優しげな笑みを零した。
ジョージは、フレッドと違ってキザな台詞をあまり口にしなかった。冗談は言うが、口もフレッドより達者じゃない。それが真っ先に感じた2人の違いだった。
そして、数日経ってから更に気がついたのは、ジョージの観察眼の鋭さだった。こう考えたら悪いかもしれないけど、ジョージはフレッドよりも気が利いた。
相手の些細な表情や行動に気がつくし、しかもそれを相手に悟られないようにするのが上手かったのだ。ある時の放課後のお誘いもそうだった。
予定は無かった。だけど、久しぶりに面白い本を見つけた私は、その続きを読みたい気持ちがあった。
でも、この1週間はジョージの事を知るための1週間だ…本は逃げないし、彼との時間を優先しよう。
そう思った私は、すぐに「いいえ、何も無いわ」とジョージに返事を返した。フレッドの時のように、悪戯グッズでも見せてくれるのかな?とそんな事を思いながら。
あの時、ジョージはきっと他の事に誘おうとしていたはずだ。だけど、本を読みたいという私の気持ちに気がついたように、彼は至って自然と図書室へ誘ってくれた。
それ以外にも、彼は案外聞き上手で…私が好きな本の話をし始めれば、いつも隣で微笑みながら聞いてくれた。「つまらなくない?」とある時私が聞いてみれば「あなたが話す事は、全部面白いさ」と楽しそうに笑ってくれた。
ジョージといる時間は、彼の雰囲気のおかげか心地よかったし、沈黙があったとしてもあまり怖くは無かった。
ジョージは、ニコリと笑って首を傾げると私からの返事を待つように、じっと瞳を見つめてきた。
そうか、もう週末が近いのか…ジョージからの誘いにそんな事を思いながら、私は何度か頷いた。
私からの返事を聞くと、彼は何処が嬉しそうに笑ったあと「フレッドより楽しませる」と悪戯に笑い、私の手を優しく握った。
フレッドの時と同様、気がつけば週末がやって来た。
前の晩「一緒に行きたいから談話室で待っててくれ」と言われた私は、大人しく暖炉の前のソファーに座りジョージの事を待っていた。
燃えゆく薪を眺めていると、後ろの階段から足音が聞こえ、私は階段の方へ振り返った。
振り返った先には、少し不安げな表情を浮かべるジョージが立っていた。だけど私には、謝ってくる彼の声は聞こえず、その姿をただじっと見つめていた。
私服に身を包んだ彼の姿は、同級生かを疑うほどに大人っぽくて、私の胸を弾ませるのには十分過ぎた。
思わず彼に見惚れ、ボーッとしていた私はジョージの声にハッとしてすぐに視線を逸らした。フレッドの時の二の舞いにならぬ様、口をぎゅっと噤みながら。
ジョージは、服の襟元を触りながら少し悲しげにそう言った。どうやら、私のぎこちない態度のせいで勘違いをさせてしまっているらしい。
似合ってないなんて…そんな訳が無い。むしろ、似合いすぎているくらいだ。それに、私の好みを覚えていてくれてるなんて、、
恥ずかしさから、私は目を逸らしてそう言った。
するとすぐに、安堵感の混じったため息と「良かった」というジョージの声が聞こえた。
ジョージは、ソファーに座っている私の前まで来ると私の髪をサラリと撫でながら、柔らかく笑った。
そしてジョージは「行こう」と微笑みながら、私に手を差し伸べた。そんな紳士的な彼の行動に、私の心臓は煩さを増す。
フレッドの時も感じたような、不安げな感情を再び抱きながら、ジョージの手を取った私は彼と共にホグズミードへ向かった。
ジョージは、私の行きたいお店に率先して連れていってくれた。服屋に雑貨、書店まで。勿論、交互に行きたい店に行ったから、ゾンコの店にだって訪れた。
彼とホグズミードで過ごす時間は、すごく穏やかで冬の寒さを忘れる程、空気が暖かく とても心地が良かった。
三本の箒を出て、そう言ったジョージの視線を追うように、私も時計へと視線を移す。
ジョージに「戻ろう」と言われた私は、少しだけ間を置いてから「えぇ…」と返事を返した。
もしかしたら、ジョージもフレッドみたいに…なんてちょっとだけ期待してしまったけど、きっとジョージは仮に見つかってしまった時の可能性を考えてくれたのだろう。とそう思った。
私達2人の城へと戻る足取りは、心做しかホグズミードに行く時よりも遅い気がした。
城に着くと、ホグズミードから戻ったばかりの生徒や下級生がぞろぞろと自分の寮へ戻っている所だった。
その列に紛れ、ジョージと共に寮に戻ろうとした時、彼が私の腕を掴み「あなた」と引き止めた。
今日が終われば、生涯経験する事はないだろう不思議な2週間が幕を閉じる。フレッドの時もギリギリまで一緒にいたのだ。ジョージもそうしないとフェアじゃない。
そう思った私は、彼からの誘いに快く頷くと彼に連れられるまま、人気の少ない廊下へと行き、就寝時間ギリギリになるまで他愛もない話を彼と楽しんだ。
そして、まだ彼と話していたい。そんな名残惜しさを感じながら、私たちはもう誰もいない談話室へと戻った。
階段の方へと足を向けかけたその時、ジョージは私の事を引き止め、目の前に小さな箱を差し出してきた。
予想外の彼の行動に、私は戸惑いの声を漏らした。
ジョージに言われるまま開けてみれば、中に入っていたのは、ホグズミードのお店で見かけた"ピアス"だった。
それも、私が欲しいと思っていたピアス。
ジョージはそう言いながら、少し照れくさそうに笑った。そして「気に入ったか?」と私の事を見つめながら聞いてくる彼の姿に、私は自然と頬を緩ませた。
そう言いながらジョージは、私の頬を撫で真っ直ぐと瞳を見つめてきた。彼は、フレッドと違ってあまりキザな事は言わない。
だからこそ、突然投げかけられる甘い声と言葉に、私の心臓は自分に聞こえるほど煩く鳴るのだ。
言葉に詰まった私を見て、ジョージは優しく微笑み、私の頭をポンと軽く撫でてから、そのまま部屋に続く階段を登っていった。
ジョージの足音が消え、静けさのある談話室で私はただ1人、自分の足元を眺めながら立ち尽くしていた。
"2人"のことを考え、熱くなった頬に触れながら。
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ほぼ1ヶ月更新できずに申し訳ありませんでした🙇♀️
私生活が忙しすぎるため、いつも以上に更新遅れております。ご理解の程よろしくお願い致します。
ジョージとのお話如何でしたでしょうか?🧡
フレッドとの違いを出すため、若干のキャラ崩壊がおきている可能性がありますが、ご了承ください🙏
(あと少々の作者好みも出ているかもしれません…)
次回は、あなたちゃんの決断パートです!
少し短いかもしれませんが、更新お待ちください🍀*゜
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。