「あなた、怪我大丈夫…?」と再び泣きそうな顔をするクレアに、「平気よ、練習で鍛えられてるから」なんて笑って返しながら、必死に走って来た廊下を、今度はクレアと歩いて戻る。
人気のない廊下の奥には、微かに落ち着きが無い様子のセドリックが、壁にもたれるように待っていた。
私が少し遠くから呼びかけると、彼は真っ先に2人で並ぶ私たちを視界に入れ、安心したように微笑んだ。
セドリックの側まで来た私達2人に、彼はまるで自分の事のように嬉しそうな表情で笑いかけた。
私がそう言い終え、彼に微笑みかけると隣に立っていたクレアが「セドリック…!」と大きな声で彼を呼び、次の瞬間には深々と彼に向かって頭を下げていた。
90度以上も傾いてるんじゃないかと思う程、勢いあるクレアからの謝罪に、セドリックが驚いた様子で目を丸くする。しかし、そんな彼に気づく事も無く、クレアはゆっくりと頭を上げながら、謝罪の言葉を更に続けた。
セドリックの言葉を遮るように謝るクレアは、再びセドリックに向けて深々と頭を下げた。
私の事も彼に謝るなんて…と少しの驚きを感じながらも
『謝りたい』そう言っていたクレアの意志を尊重するように、私は横で彼女の事を見守った。
そう優しく言うセドリックの言葉で、クレアは申し訳なさそうな表情を浮かべたまま、ゆっくりと頭を上げた。
セドリックは、そう言ってクレアに優しく笑いかけた。
彼のそんな笑顔に、クレアは少し安心したかのように強ばっていた表情を緩めると「ごめんなさい」ともう一度だけ弱々しく謝った。
そう言った私に向かうクレアからの熱い視線が、真横から私に刺さる。感じる視線から横を向かなくても、彼女が少し涙目になっているのは容易に想像ができた。
私が「ね?クレア」と彼女の方を向き優しく笑いかけると、クレアは瞳を揺らしながらも「うん」と嬉しそうに頷いた。そしてクレアは、再びセドリックの方へ向き直ると深く息を吸い込んでから、口を開いた。
なんとなく、クレアは自分の気持ちを伝えるのだろう…とそんな事を思い、私は少しばかり視線を逸らした。
嫌なわけじゃないし、クレアも彼女なりに気持ちに区切りをつけようとしてくれているのかもしれない。そう言い聞かせ、若干複雑な気持ちに私は蓋をしようとした。
あまりにも予想外のクレアの言葉に、私は声を上ずらせ目を丸くした。そんな私を見て、クレアは『ごめん』と口だけを動かし、言葉とは裏腹に悪戯に微笑んだ。
目の前のセドリックも、クレアのその言葉に ふっ…と口元を緩ませる。
耳から徐々に広がる体の熱を感じながら「ちょっと今の…!」と彼女を引き留めようとするが、少し遅くクレアはもうその場を離れかけていた。
調子のいいクレアの言葉に、私は再び声を裏返す。
複雑になった私の気持ちを返して欲しいと思う程、予想外のこの状況に、私は動揺と恥ずかしさをいり混ぜた感情を抱きながら、ゆっくりとセドリックの方に視線を移した。
彼の悪戯な笑顔と視線が私に向けられ、赤く染っているであろう私の耳が彼の大きな手にそっと触れられる。
自然にピクリッと体が揺れるが、私はそれを誤魔化すように彼から視線を逸らしながら「そんなわけないでしょ…クレアの冗談よ」とそう言った。
逸らしていた視線を覗き込まれるように、彼の綺麗な瞳が私の瞳を捕える。ドクッと強く跳ね上がる心臓と共に、体はさらに熱を帯びた。
私の耳からそっと手を離したセドリックは、私からの答えを待つように私をじっと見つめた。そんな彼に、声を発さず小さく首を動かして頷いてみせる。
彼から伝えられる言葉は予想通りの告白で、心構えはしていたはずなのに、私の心臓は周りの音が聞こえなくなる程煩く鳴り、緊張のせいか返事は喉で少し詰まった。
現実か夢かも分からない。さっきまでのクレアといた時間が現実で、今は夢の中なのかもしれない。そう思えるほど、私は今の状況をどこかで信じられずにいた。
叶わなくていい。叶うわけが無い。私の恋心なんて…。そんな風に思っていたはずなのに、今私はその恋心を抱いていた相手に面と向かって告白されているのだ。
夢見心地の感情と現実を思わせる血がドクドクと流れる感覚に襲われながら、私は漸くセドリックの瞳を見つめ返した。
そう返事を返すと、セドリックは何処か幼げに頬を緩め
そのまま私の事を覆うように強く抱き締めた。
落ち着くにも関わらず、鼓動を更に早めるような彼の匂いに包まれ、私は思わず硬直する。そんな私に気がついてか、彼は少し名残惜しそうに体を私から離した。
熱を帯びた彼の瞳が、私の事を再び捕える。
永遠にも感じるたった数秒の間、私達は一言も言葉を発さず、ただ黙りながら互いを見つめ合った。
そして、本能に導かれるかのように引き寄せられ
僅かなリップ音をたて、私達は甘く優しいキスをした。
何処かから湧き出てくる照れ臭さから、私達はお互いに頬を赤らめ見つめ合いながら笑い合った。
微かな笑い声が静かな廊下の中に響き、消えていった頃
セドリックは、微笑みながら私の手を優しく握った。
ニコリと柔らかく微笑み、彼の手を握り返す。
するとセドリックは、一瞬目を見開いた後「行こうか」とやけに嬉しそうに微笑んだ。
他愛もない会話を弾ませながら、私とセドリックは隣同士に並んで歩き、グリフィンドール寮に向かった。
それから数ヶ月。私とセドリックの交際は、瞬く間にホグワーツ全体へと広がり、大きな話題となった。
しかし1ヶ月も経てば、次第にその話題の規模も小さくなり、気がつけば私とセドリックが"恋人同士"なんていうのはホグワーツの中で、日常になっていた。
何事もなく、順風満帆に過ごした数ヶ月がすぎ…
今日は、ホグワーツの新学期。9月1日。
学年が1つ上がり、私とクレアは5年生へ。
そして彼は、6年生へと学年が上がった。
まだ時間があるが、彼が卒業するのは私よりも1年早い
貴重な時間を大切に、今年も彼とホグワーツで沢山思い出を作れたらいいな。なんて事を考えていると…
「あなた!」と明るい声が聞こえ、コンパートメントの扉が勢いよく開いた。
変わらぬ明るい笑顔と少し焼けた肌を見せながら、クレアは私の前の席に腰を下ろした。
どうやら、手紙で言っていたように夏休み中の"旅行"を相当楽しんできたようだ。
5年生になり、監督生に選ばれた私を煽てるような言葉を混ぜながら、クレアがニヤニヤと笑って聞いてくる。
彼と付き合った当初。気にしないで!と言われていたものの、私はクレアに彼との話をする事を何処かで控えていた。
しかし、いつからかクレアが自ら聞くようになり、今では話す度に食い入るように聞いてくる事が増えたのだ。
今だって、彼と出掛けたことを聞いただけでクレアは目をキラキラと輝かせ、私の方へグイッと顔を寄せた。「もっと聞かせて!」と言うクレアの瞳に負け、私は聞かれるままに彼と過ごした夏休みの思い出をクレアに話した。
一通り私が話終えると、クレアは満足気に微笑んでから
「ねぇ…」と今度は少し真剣な表情を浮かべ始めた。
先程までとは違う神妙な面持ちに、思わず身構える。
私がそう聞き返すと、クレアは頬を赤らめながら何度も小さく頷いた。悪戯好きのウィーズリー?とも思ったが、彼らは根は優しく面倒みもいい。それに、クレアの表情を見る限り、どうやら彼女もかなり本気なようだ。
幸せそうなクレアに安堵し、一瞬感じた不安もどこかに消えた私は「ふっ…応援するわ」と彼女の手を握った。
クレアは私の瞳を真っ直ぐ見つめながらそう言った。
そんな彼女の言葉に、私は思わず頬を緩ませた。そして、彼女の手をもう一度強く握り「わかった、頑張ってねクレア」と彼女を見つめ返した。
想像していたよりも行動的なクレアに、ふっ…と笑みを零してから、緊張しているであろう強ばったクレアの頬を優しく触ってそう言う。
「ありがとう…」そう返したクレアは、再び勢いよくコンパートメントの扉を開けて飛び出した。
扉を出た瞬間、鉢合わせたセドリックにすら軽い挨拶だけを送り、クレアは颯爽とフレッド達がいるであろうコンパートメントに向かって行った。
クレアと入れ替わるようにコンパートメントに入ってきたセドリックは、そう言いながら私の前に座った。
そう私が言い終え、お互いに少し微笑み合う。
そして、なんとなく窓の外を同時に眺めた私達。
流れる景色を2人で見つめ続ける。
そこには甘い雰囲気も特別感ももちろんない。だけど私は、彼と過ごすこんな普通の時間が好きだった。
5年生。どんな年になるのかは想像もつかないけれど
クレアと恋の話をしたり、セドリックと2人の時間を過ごしたり…
そんな私にとっての他愛もない日常が続けばいいな。
そう思いながら、まだ窓の外を眺めているセドリックの横顔に、私は自然と視線を向けていた。
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今回お話長かったですね😓
書きたい内容がありすぎて、長くなってしまいました…
読みにくかったらすみません🙇♀️
でも、何はともあれ3人とも幸せそうで嬉しいです💚
ちなみに、あなたちゃんを虐めていた主犯格の女子生徒達は、監督生としての職務を全うしたセドリックによって無事先生に報告されています😌
(セドリックの私情も少々入ってはいますが…)
時系列的には、この時期に三大魔法学校対抗試合がある筈ですが…それだと悲しいストーリーが出来上がってしまいそうなので、平穏なホグワーツである事を願います🕊🤍
【お気に入り🌟】1,230人突破です!🎉
皆様いつも応援ありがとうございます!!⋆⸜❤︎⸝⋆
まだまだ未熟な作者ですが
これからも、応援よろしくお願い致します🍀*゜
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。