人目に付きにくい、薄暗がりの廊下の奥。
そこまで行くと、蹲っているクレアの姿があった。
クレアは、何かあると時々この場所に来る事がある。
だから一か八かで来てみたが、どうやら私の予想は的中したらしい。
名前を呼び、蹲る彼女に駆け寄ると、クレアは顔を直ぐに上げ立ち上がり、私の方へと振り返った。
陶器のようなクレアの頬には涙が今も伝い、目元はほんのりと赤く色付いていた。絶え絶えな息遣いの彼女を見れば、相当泣いていた事が伝わってきた。
今にも消え入りそうな声を出すクレアを前にして、私は深く頭を下げて彼女に謝った。私が頭を上げると目の前では、上手く状況が理解出来ていないクレアが、目を丸く見開き、私の事を見つめていた。
クレアに隠し続け、自分を誤魔化し続けていた気持ちを口に出して言った途端、私の心の中で何かがスっと溶けて、軽くなるような感じがした。
クレアは、私の言葉を遮るように突然声を荒らげた。
だけどそれは、私に怒っていると言うよりもクレアがクレア自身に怒り、声を荒らげているような、そんな風に聞こえた。
荒々しかったクレアの声は次第に震え始め、段々とか細くなった。震える彼女の声と共に、クレアの頬に大粒の涙が零れ続ける。
私は、その溢れ落ちる涙を、クレアをじっと見つめた。
クレアは泣きながら、何度も「ごめんなさい」と言い
やがて、深々と下げていた頭と共に、そのままその場に崩れ落ちた。
静かな廊下に、クレアのか細い声と啜り泣く声が響く。
蹲り泣き続けているクレアの前に、私は膝をついてしゃがみ込んだ。そして、俯いている彼女の顔を上に向かせるように、彼女の頬に優しく触れた。
しゃくりあげて泣いていたクレアを落ち着かせるように
私は、優しい口調で話しクレアに穏やかに笑いかけた。
クレアが、少し晴れた目を再び丸くして私を見る。
あの時、女生徒と共に来た私を見た時のクレアの表情は
周りの女生徒達とは違い、酷く何かに怯えているようだった。とても、私を虐めようとしている表情ではなく、私は直ぐにクレアも同じ状況だと悟ったのだ。
私がそこまで言い終えると、クレアは止まっていた筈の涙を再び瞳の中に溜め始め、女生徒達が怖くて止められなかった事、止めたら次は自分だと脅された事を私に告げ、またごめんなさいと謝った。
女生徒達に対して、ふつふつと湧き上がる感情を抑え
私は、「クレア」と彼女の名前を呼び彼女の顔を覗き込んだ。
私の言葉が予想外だったのか、クレアは小さく間の抜けた声を出すと、口を開けたまま何度か瞬きをした。
しゃくりあげる様に泣き出したクレアを私は包み込むように抱きしめた。「ありがとう」と私が言うと、クレアはその何倍も「ありがとう、ごめんね」と泣きながら私に伝え、その度に強く私の事を抱きしめた。
そして、少しの時間が経ちクレアが段々と落ち着き始めた頃、クレアが「ねぇ、あなた…」と口を開いた。
クレアは、鼻をすすりながら真っ直ぐな視線を私に向けた。「嫌かもしれないけど…」そう付け足すクレアに対し、私はすぐに首を横に振った。
そう言って立ち上がった私は、クレアに手を差し伸べた。クレアは一瞬戸惑う表情を見せたが、やがて私の手を取り、私に引っ張られるままに立ち上がった。
そして私達は、共にセドリックの元へ向かった。
暫くぶりに、お互いに隣を歩きながら。
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1話が長くなりそうなので、一旦切ります!
次回で【友情か恋愛か】最終回です🪄
無事、クレアとあなたちゃんが仲直り出来ました 𓈒𓏸
作者、一安心でございます😌💕
【お気に入り🌟】1,200人突破致しました!🎉
わぁ!!1,200人!?幻かと疑いました…
これだけ多くの方に見て頂けているのは、応援してくださっている読者様のおかげでございます。皆様、いつも応援ありがとうございます!!🕊🤍
これからも、作者のペースでゆっくりと更新する事にはなりますが、応援し続けて頂けると嬉しいです。
まだまだ未熟な作者ですが、よろしくお願い致します🙇♀️
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。