電車に揺られながら、数十分前を思い返した。
それは私が物に釣られた日の一週間後の控え室での会話だ。
はい、存じております……。
なーくんの顔がドアップで現れる。
どこからともなく現れた莉犬くんはブーイングをし始める。
大丈夫。一緒に行くから……内心でそう思いながら改めて大変なことになったと思った。
そして、当日の数時間前……朝六時、ゆりちゃんの家でメイクはをしてもらった。
その時、ゆりちゃんの目が輝いた気がした。その後はもう、しっかりとは覚えていない。3時間後、メイク、服、小物、香水、靴。全て三日の間に私が買わないようなものを買ってもらった。
でもよく考えると、前のような派手髪や目の色は印象に残りやすいかもしれないと思い無難な黒に変更。
そう言って渡された鏡で自分の姿を見た私は驚愕した。
そこには美少女と呼んでも良い少女が写っていたのだった。
ゆりちゃんは私の肩にポンッと手を置いた。ゆりちゃんには感謝してもしたりない。
「次は~、出雲目~、出雲目~。」
降りる駅の放送で、私の意識が戻ってきた。
私はこの仕事のお陰でたくさんのことが変わった。
姉さんを入院させることができた。
楽しい生活をおくることができた。
バレたら前の生活に逆戻り。
みんなとも接点がなくなるだろう。
私は自分がそう思ったことに驚き、小さく微笑んだ。
大切に思える人が増えた今、絶対に
私はニヤリと笑みを浮かべて、歩きだした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。