赤葦side
今思えば修学旅行の委員に入っといて本当に良かった。ほんとに。あのとき他の男子がなかなか手を挙げなかったのは断じてあの子がうるさくて落ち着きがないからではない。
ぱっと見は美人。うつくしい。のに喋り出したら木兎さんみたいな、そんな彼女を見かけたのは高1の夏だった。
ハーフコートが女バスだったとき、女バスは練習試合をしていた。1年生ながら試合に出ている君はすぐに見つけられた。なんとなくだけど動きに無駄がない感じがする。ちょうどそのとき、ボールがズバッとコートを裂くようにして上がってきて、君がシュートを打った。スリーポイントシュート。ネットにもリングにも、もちろんボードにも当たらずに、リングを抜けて落ちる。
そのシュートが1番難しくて、1番凄いんだと他のバスケ部に後から聞いた。
彼女とペアの修学旅行委員が空いていた理由はおそらく彼女が可愛すぎて話すのに緊張するとか、あの子もあの子で最初は人見知りするようだし、とにかく落ち着きがないからとかではない。(と思う)
ゴールデンウィーク合宿の時なんて俺結構最低だったんじゃないかって今すごく反省中だ。
まず、なんで音駒のマネージャー?あの子はうちのマネージャーですけど???
え?木兎さんいつから律呼びになった?昨日までは如月ーって呼んでたような。だめだ。考えたら負け。
でも、如月さん、すごい楽しそうに黒尾さんと弧爪と話してる。…?何この感情。
むっ。何を?
その日の試合はほんとにあっという間で、木兎さんも調子が良かったのか今日はご機嫌だ。夜ご飯までの間いつものように第3体育館に向かおうとして途中の水道に如月さんを見つけたから肩越しに声をかけた。
すごいびっくりされた。そりゃあもう盛大に。
ほんと、今日1日ろくに話してない。
ちょっと嫌な言い方だったかも。でも如月は全然嫌味のない顔で返してくる。気づいてないのか、
そっちか。ちょっとした対抗心。木兎さんに対しての。
ずるい聞き方をした。
木兎さんが律って呼んでてムカついた。なんて言えません。少し考え込むようにしてから、上目遣いでこっちを向いて小首を傾げた。え?
まってまってまってまって。心臓うるさい。言った瞬間如月はすごい勢いで顔の表情を元に戻した。なにか苦いものを食べたみたいな顔をしてた。
平静を装うのに必死だった。呼び捨ての破壊力。
そのまま如月とは別れて第3体育館に戻った
いつかと同じことを言われる。やばい顔熱い。というか、このまま木兎さんをほっといたら黒尾さんと月島に気づかれそうだからなんとかしなければならない
しばらくして如月が呼びにきて、ちょっと目があったけど全力で逸らしてしまった。やべぇ。
ご飯を食べ終え部屋に戻ってから、黒尾さんから召集がかかり木兎さん1人だと不安なのでついていくことにした。
大広間に到着すると結構な人数が集まっていた。話題は研磨だった。好きすぎかよ
冷静にツッコミを入れながらも心は穏やかではなかった。研磨が呼び捨て?なんで?いや、普通のことか、ていうか、ばれてる。ばれてる。良かった木兎さんが頭の回らない人で。
部屋に戻ってからも木兎さんにしつこく聞かれたけど枕をぶん投げたので少し静かになった。ふう。
朝起きて、木兎さんにもう一度枕を投げつけてから食堂に向かった。
食べ終わって体育館に向かう途中、昨日のことなんか綺麗さっぱり忘れた木兎さんが研磨に駆け寄った
逃げられた。かわいそうに。
午前のローテをこなして昼ごはんの時、如月に話しかけられそうになったけど、木兎さんに逃げてしまった。
しっかり避けた。あーあ。なにやってんの俺
午後のローテも滞りなく行われ自主練の時間。黒尾さんにニヤニヤしながら見られたので、一応睨み返しておいた。
今日は白福が呼びにきて、食堂へ向かう。如月はもう食堂にはいなかった。
今日は音駒の部屋で集まろーぜーとのことなので木兎さんと2人で向かう。その途中で白福と雀田先輩に会った
ちょっと迷って、この2人にはばれてるからいっかと思い聞いてみた。
自分で聞いといて、その場に居たくなくて、逃げた
お風呂上がりの女子は無敵。やばかった。しかも髪濡れてた。やばい。及川さん的思考??
聞こえないふり。ほんとなにやってんだ。
音駒の部屋についても、顔の熱は抜けきってくれなくて、黒尾さんにからかわれた。
3日目はボトルのやりとり以外はほとんど顔を見ていない。帰りのバスに乗る直前、研磨が如月の袖を掴んで耳元で話してるのを見た。まじか。しかも笑ってる研磨も照れてる。
バスに乗り込んできた如月は1人で席についてすぐに寝た。パーキングエリアについた時、ちょうど木兎さんが静かになったので隣の席に移動した。
めちゃくちゃ可愛い。ほっぺ柔らかい。今、声かけないとダメな気がする。パーキングエリアのついでってことで起こしちゃおうか。
すごい勢いで頭を持ち上げてこっちを向いてさらにびっくりしてた
そりゃあびっくりするよなぁ避けてたもんね。ほんとなにやってんだ俺
謝る前にやっぱ弧爪のことが気になってしょうがないから聞いてしまった。
研磨ってゲーム以外興味ないのかな。いや、でも、もしかしたら気になってる…??や、でも絶対謝ったほうがいいよね避けてたし。
はぁぁぁぁ。良かった。
隣にいたいだけです。はい。
そのまますーっと意識が遠のいて気づいたら寝てた。安心したからかな。
起きたのは学校まであと10分くらいのところだったやばい。肩借りてた。頭の上に如月の頭があって。ちょっとやばかったけど自分の頭を抜いて如月の頭を肩に乗せる。
学校について、俺がいないことに驚いて騒ぎ出した木兎さんをなだめてゴールデンウィーク合宿は幕を閉じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。