どうしよう?という5文字しか頭の中に思いつかなくって、逃げ出してしまった。
でも、彼の足は日々鍛えられているからかとても速く、私はもちろん追いつかれた。
「急に走るなよ…」
「え!あっ、だって…」
会話が止まる。ああ、もうしょうがない。
「はい、そうです。早退多いのも、ウィッグ付けてるのも、バレないために…は!」
そうだ。私は自分の存在を言ってはならない。
この人、絶対SNSやってるよね…晒されて、拡散されたらもう私のモデル人生は終わってしまう。
「何となく、蕗乃の言いたい事分かるよ。ああ、大丈夫。俺LINEしか基本使わないし、晒すのも可哀想だから。」
櫂斗くんは私の事を考えてくれてた。それどころか、蕗乃って、ちゃんとした名前で呼んでくれた。
そう思った時、チャイムが鳴ってしまった。
「なっちゃった…」
「いいよ。1時間くらい。あっ、それよりもさ…LINE、交換したいんだけど…いい?」
「あっ、うん!ありがとう」
胸が高鳴る。撮影前の緊張でもない、なんとも言えない感じ。当分前の私には理解できなかった、恋という感情が、私の心の中にいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。