第3話

第3ページ#彼
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2018/02/09 15:55
城山櫂斗
ああ、いいですよ、別に。
ありえない。こんな事、ありえるのだろうか。
でも、櫂斗くんは気付いていないし、ほかの人たちも奏歌ちゃんに夢中だから、多分大丈夫だ。うん。

「フキも何か質問とかしてみたら?」
奏歌ちゃんが私を気にかけてくれてる。よし、ここはしっかりと質問しなければ!
「あ、アノ、ブカツハナニヲシテラッシャルノデスカ?」
緊張とも言えない、焦りとも言えない感情が喉にまで溢れてきて、声がヘリウムガスを吸ったみたいになった。
「僕、ですか?ああ、サッカー部です。」
「ヘエーあ、アハハ…」
あー。もう、消えてしまいたい!
「じゃあ、最後の質問は、私奏歌がやります!ズバリ、将来の夢は??」
「俳優です。」
今までは、ああ。とかばっかり言ってた櫂斗くんが、ここに来て急に強い口調になる。以外すぎて、言葉が思いつかず、結局奏歌ちゃんがコンテストの募集要項を渡して、さよならをした。

「フキ、どうした?」
帰りに寄ったパンケーキ屋さんで、奏歌ちゃんは優しくそう言った。
「いや、なんか奏歌ちゃんといっしょだと、緊張してしまって」
本当はそれ以外にもあるけど、口が裂けても言いたくなかった。
「大丈夫、私にもそういう時期あったし、ね?これからもお互い切磋琢磨していこうね!」
「はい…」一生懸命に励まされたのに、はいとしか返せない。思いやりのようなものがない、私の悪い所だ。
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「フキ〜!おはよう!元気?」
小学生の頃からの幼馴染の沙音は、いつもこんな感じだ。9年連続で、市の健康優良児に選ばれている彼女は、インフルエンザにかかったことがない。まあ、こんなことはどうでもいいんだけど。
「えっ、原宿で櫂斗に出会った?!」
「うん、バレなかったけど。」
「凄い、ね。」
沙音の反応が急に薄くなる。そりゃそうだ、櫂斗の元カノだから。「あ、そういえb」
「おお、探してたんだ。麻生、このゴミ箱の中身ゴミ捨て場に置いてきてくれないか?」
美化委員の重永先生は、いつもサボっている美化委員の人達ではなく、いつも私をパシリにしている。
「わかりました。じゃあ、沙音行ってくる。」
「いってらー!」

ゴミ捨て場の辺りはいつも人が少なく、静かな雰囲気だ。とは言ってもあと3分くらいでチャイムが鳴ってしまうので、ゆっくりはしてられない。はあー。今日はせっかく仕事ない日なのに。
そう思った瞬間。
ガラガラガラ!
階段を踏み外した。あいたたた…
「大丈夫?」
細い、けどしっかりとした筋が張っている手が、私の目の前に現れる。櫂斗くんだった。
「すいません、ありがとうございます。」
そう思って立ち上がった時、
なんだか自分の体がいつもより軽い気がした。
「ああ、君もしかして…」
ダテメが外れてる。ウィッグはどっかに行って、いつものサラサラとした茶髪のボブになっている。ああ、ああ、櫂斗くん、言わないで!
「淡島、蕗?」


終わった。

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