そう言って、覆いかぶさってくる壬生先輩を
突き飛ばそうとした。
けれど、できなかった。
壬生先輩は今まで見たことないほど、
切ない顔をしていたから。
壬生先輩の生まれて初めての本気の『好き』が
私に向けられている。
(うれしいけど、でも……)
私もその答えを見つけられずにいると、
そこへ……。
光牙は私の上に覆いかぶさっていた
壬生先輩の首根っこを掴んで、
べりっと引きはがす。
(先輩に容赦ないな……)
苦笑いしながら、私も上半身を起こした。
げんなりする光牙だったけど、
すぐに「ともかく」と言って壬生先輩を指差す。
壬生先輩の悲しみと喜びが同居したような
視線が私に注がれる。
(壬生先輩……)
いつもの軽さはどこにもない。
(今、ここにいる壬生先輩が
素の壬生秋斗なんだ)
壬生先輩は私の手を取ると、
なにかを伝えるようにぎゅっと握る。
清々しい表情をする壬生先輩に、
私は目を奪われる。
(吹っ切れた顔、してる……。
さっきまでの先輩は苦しそうだったから、
なにはともあれ、よかった)
壬生先輩に掴まれていないほうの手を
光牙に握られる。
不敵に笑う光牙に、壬生先輩はそっと私から
手を放すと背を向けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。