壬生先輩の手に顎をすくわれると、
いきなりキスされる。
(嫌っ……)
私はその胸を叩くと、勢いよく顔を背けた。
壬生先輩の胸を押し返すも、
力が強くてその腕から逃れられない。
そこへ光牙がやってきて、
壬生先輩の肩を押しやり、
私の腰を引き寄せる。
(壬生先輩にキスされちゃった)
(望んでなかったとはいえ、
光牙をまた不安にさせちゃう)
ちゃんと説明しなきゃと思うのに、
目に涙がにじむ。
私の顔をまじまじと見つめた光牙は、
弾かれるように壬生先輩を振り向いて、
鋭く睨む。
光牙は壬生先輩の胸倉を掴んで、
思いっきり放り投げた。
壬生先輩は廊下の壁に背をぶつけるような形で、
尻餅をつく。
そんな壬生先輩の周りに、
取り巻きの女の子たちが集まる。
女の子たちの射貫くような視線が、
私と光牙に突き刺さった。
笑顔だったけれど、有無を言わさない
圧を発して、壬生先輩は立ち上がる。
光牙は吐き捨てるように言って、
私を強く抱き寄せた。
私に向かってパチッとウィンクをして、
壬生先輩は女の子たちを引き連れながら
立ち去る。
ふたりだけになると、私はふうっと息をついた。
怖い顔をした光牙は私の手を引いて、
階段の踊り場にやってくると──。
光牙は私の顎を持ち上げると、
強引に唇を重ねてきた。
(上書きって、キスの上書き!?)
目を閉じる間もなく、
私は光牙の柔らかな温もりを受け入れる。
長い時間、触れ合っていた唇が離れた。
ぎゅうっと、
光牙は私を胸に閉じ込めるように抱きしめる。
(守ってやる)
その声が好きでもない人にキスされて、
冷え切っていた私の胸を温かくしてくれた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。