うんざりした様子で、
富藤くんは私を引きはがす。
(あ……富藤くんは、
私を助けてくれたってこと?)
急に抱きしめられた意味を知って、
私は納得する。
(いきなりすぎて、わかりづらいけど……)
笑顔でお礼を伝えると、
富藤くんはすっと私から視線を逸らす。
富藤くんは私の肩を押した。
──ポスンッ。
強制的にベッドに横たえられた私は、
富藤くんを見上げる。
私の視線に気づいた富藤くんが片眉を上げた。
(さっき、さっさと帰れって言ってたけど……)
ぶんぶんと勢いよく首を横に振ったら、
また頭がクラッとした。
(世界が回る……)
ふしゅーっと息を吐いて、
ベッドにぐったりと沈む私を
富藤くんは呆れたように見る。
富藤くんはお盆を差し出してくる。
その上には梅干し入りの卵粥が載っていた。
ふわふわと湯気が立っていて、
口の中にじわっと唾液が出る。
(料理できるんだ!)
驚きながらも、お盆を受けとる。
富藤くんは市販の風邪薬を
私が持つお盆の上に置いた。
胸がじんとして、弱っているからか
泣きたくなってきた。
私は滲んだ涙を隠すように俯いて、
スプーンを握ると卵粥をすくう。
息をふきかけてから、
ひと口、卵粥を食べた途端、
身体の芯から温まるような感覚がした。
染み渡っていく富藤くんの優しさに、
ぽろっと目から雫がこぼれ落ちる。
笑ってごまかして、お粥を口に運ぶ。
でも、涙は蛇口が壊れた水道みたいに
止まらない。
富藤くんはため息をこぼしながら、
私に手を伸ばしてきて──。
至近距離に、富藤くんの顔が迫って、
心臓が飛び跳ねた。
(な、なに!?)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。