ひそひそと話していたクラスメイトたちを
富藤くんはひと睨みする。
その瞬間、人だかりが散っていった。
半信半疑の様子の由真に、私は強く頷く。
そう言ったとき、ふいに富藤くんが私を見た。
(あ……目が合っちゃった)
けれど、すぐに視線を逸らされてしまい、
富藤くんは窓際のいちばん後ろの席に座った。
実は、家に帰ってすぐ、
私は富藤くんへのお返しを用意していた。
(手作りクッキー、食べてくれるといいな)
帰ってきて早々にお菓子を作り始めた私を、
変な目で見ていたお母さんのことを
思い出しながら……。
──やってきた昼休み。
お弁当を手に教室を出て行った富藤くんを
廊下で捕まえる。
私はおずおずと、
ラッピングしたクッキーを差し出した。
それだけ言って、
富藤くんはクッキーを手にどこかへ歩き出す。
富藤くんの後ろを追いかけて、
私は尋ねた。
訝しげに私を横目で見た富藤くんに、
首を傾げる。
目が合っただけで殴りかかってくるなんて、
真っ赤な嘘だ。
(富藤くんは、理由もなしに
人を傷つけたりはしないと思う)
富藤くんは屋上に続く扉の取っ手を
握りながら、私を振り返る。
私は取っ手を握っている富藤くんの手の甲に、
自分の手を重ねる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。