第6話

お返しは手作りクッキー
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2019/12/18 09:09
クラスの男の子A
クラスの男の子A
うわっ、富藤だ
クラスの女の子A 
クラスの女の子A 
こわーい、
あんな言い方しなくてもいいのに……
ひそひそと話していたクラスメイトたちを
富藤くんはひと睨みする。

その瞬間、人だかりが散っていった。
由真
由真
あの調子で、
本当にあなたの面倒見てくれたの?
半信半疑の様子の由真に、私は強く頷く。
あなた

うん! 
富藤くんは優しい人だよ

そう言ったとき、ふいに富藤くんが私を見た。
富藤 光牙
富藤 光牙
…………
(あ……目が合っちゃった)

けれど、すぐに視線を逸らされてしまい、
富藤くんは窓際のいちばん後ろの席に座った。

実は、家に帰ってすぐ、
私は富藤くんへのお返しを用意していた。

(手作りクッキー、食べてくれるといいな)

帰ってきて早々にお菓子を作り始めた私を、
変な目で見ていたお母さんのことを
思い出しながら……。

──やってきた昼休み。
あなた

富藤くん!

お弁当を手に教室を出て行った富藤くんを
廊下で捕まえる。
富藤 光牙
富藤 光牙
俺に関わんな、面倒くせえから
あなた

ごめんね? 
でもこれ、受け取ってほしくて……

私はおずおずと、
ラッピングしたクッキーを差し出した。
富藤 光牙
富藤 光牙
んだよ、これ
あなた

クッキー、作ったの。
昨日のお礼に

富藤 光牙
富藤 光牙
そういうの、いらねえ。
礼をされるようなこと、
した覚えねえからな
あなた

でも、富藤くんに受け取って
もらえないと、そのクッキーは
ゴミ箱行きなので……

富藤 光牙
富藤 光牙
新手の脅しか、てめえ
あなた

ち、違うよ! 
とにかく、もらってくれると助かります!

富藤 光牙
富藤 光牙
……はあ。わかった
それだけ言って、
富藤くんはクッキーを手にどこかへ歩き出す。
あなた

どこに行くの?

富藤くんの後ろを追いかけて、
私は尋ねた。
富藤 光牙
富藤 光牙
ついてくんな。
お前には関係ねえだろ
あなた

でも、できれば、
そのクッキーの味の感想を聞きたいので……

富藤 光牙
富藤 光牙
お前、俺が怖くないのかよ?
訝しげに私を横目で見た富藤くんに、
首を傾げる。
あなた

怖い? どうして? 
富藤くんは、私のヒーローなのに?

富藤 光牙
富藤 光牙
お母さんの次はヒーローかよ……
あなた

ふふっ、うん! 確かに初めは、
噂のこともあって怖かったけど……

目が合っただけで殴りかかってくるなんて、
真っ赤な嘘だ。

(富藤くんは、理由もなしに
人を傷つけたりはしないと思う)
あなた

富藤くんの優しさを知ったから、
怖いだなんて思わないよ

富藤 光牙
富藤 光牙
……わけ、わかんねえ
富藤くんは屋上に続く扉の取っ手を
握りながら、私を振り返る。
富藤 光牙
富藤 光牙
俺は……誰かに懐かれるような人間じゃ
ねえんだけどな……
あなた

ふふっ、じゃあ富藤くんの
素敵なところを知ってるのは、
まだ私だけってことかな?

富藤 光牙
富藤 光牙
……なんで、うれしそうなんだよ。お前
あなた

うれしそう、じゃなくてうれしいんだよ。
だって……

私は取っ手を握っている富藤くんの手の甲に、
自分の手を重ねる。
あなた

本当の富藤くんを知ったら、
みんな富藤くんと仲良くなりたいって
思うはずだから。
まだ独り占めできるなって

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