びくびくしながらじっとしていると、
富藤くんは自分の服の袖で、
私の顔をごしごしと拭き始めた。
(あれ、これってまさか……)
(涙を拭いてくれてるの……かな?
富藤くんって、面倒見がいいんだな)
されるがまま、じっとしていると
富藤くんはまたため息をつく。
私は急いで卵粥を食べると、
ありがたく薬を飲んで、横になる。
(そういえば、帰りが遅くなるって、
家に連絡しないと)
私はスマホを探して、
もう一度身体を起こした。
すると、目の前にカバンが差し出される。
(気が利くな……)
スマホを取り出して画面を見ると、
時刻は17時。
もっと遅い時間だと思っていたので、驚く。
(もし彼女がいたら、勘違いされても、
富藤くんは困るだろうし……)
(じゃあ、この家で富藤くんは
ひとりきりなんだ……)
なんとなく、
この人をひとりにしたくなかった。
なんでそう思うのかは、わからないけれど。
富藤くんはぶっきらぼうにそう言って、
私の食べ終わったお粥の器を片付ける。
そんな富藤くんを見つめながら、
私は横になった。
うとうとしながら、私はお礼を口にする。
すると、手を止めた富藤くんに睨まれた。
私は眠気に抗えず、目を閉じる。
真っ暗な視界の中で、
これだけは伝えなきゃと口を動かした。
夢か現実かわからなくなりながら、私は喋る。
すると、ふいにベッドのスプリングが
ギシッと鳴った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。