お母さんと呼んだら、
物凄い剣幕でメンチを切られた。
私は謝りながらも、席に着く。
しばらくして、朝食が運ばれてきたのだが、
和食のフルコースだった。
さっさと帰れなんて言いながら、
食事まで用意してくれて……。
富藤くんは、なんだかんだ
面倒を見てくれている。
お腹いっぱい食べたあと、
私はお暇することになった。
玄関で靴に履き替えると、
改めて富藤くんに向き直る。
富藤くんの言葉を遮って、
思ったことをそのまま告げる。
すると、富藤くんは「はーっ」と
長く息を吐いた。
富藤くんは私の手首を掴んで、
玄関の扉に押さえつける。
(そうだよね。お返し、
なにをすればいいかな……)
至近距離にある富藤くんの目を見つめながら、
私は思考を巡らせて……。
(本人に聞くのが、いちばんだよね)
そう思って尋ねると、
富藤くんは『信じられねえ』という顔をした。
富藤くんは疲れた様子で、私から手を放す。
それから、しっしと手で私を追い払う仕草をした。
私は最後にぺこりと頭を下げて、
富藤くんの家をあとにした。
***
数時間後──。
一旦、家に帰ってから学校にやってきた。
窓側のいちばん前の席に座っている
親友の由真が椅子を反転させる。
そして、すぐ後ろの席にいる私のほうを向くと、
ニヤニヤしだした。
私は昨日の出来事を親友に報告していたのだけれど、由真は完全に面白がっている。
首を横に振ると、由真は残念そうな顔をする。
由真の視線を辿るように、
教室の入り口を見ると──。
富藤くんが教室の入り口に集まっていた
女子と男子のグループに啖呵を切っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。