ばたりと目の前で倒れる涼太に、慌てて駆け寄る。
あまりの衝撃に、
彼がすでにゾンビになっていることすら
頭の中からすっぽぬけていた私は、
何度も「死なないで」と叫んでいた。
意識があるのか、小さなうめき声をあげた彼に
ほっとしたのも束の間。
───パァン!
─────パン、パン、パァン……!
追撃するかのように、
ライフルの弾丸は私達を襲ってくる。
私は目を固く閉じて、
涼太を守るようにして身を屈めるのがやっとだった。
きっと自衛隊の人たちは私達を
ゾンビだと思っているのだろう。
鳴り止まない銃声、そしてじわりと頬に熱を感じる。
ツゥと頬を何かが垂れた。
手の甲で拭ってみると、
そこには真っ赤な血がついていた。
きっと知らない内に、銃弾が頬をかすめたのだろう。
次の瞬間、むくりと涼太が立ち上がった。
雄叫びをあげるように叫んだかと思えば、
私に背を向けて立ちはだかる。
だけど、声は届いていないみたいで
彼は銃弾から私を守るように両手を広げた。
─────パン、パン、パァン……!
彼の身体が銃弾を受けた衝撃で揺れる。
位置的に、頬、肩、そして脇腹。
しかし、それでも依然として立ったままの彼を見て
私はとある記憶がフラッシュバックした。
それは、まだ私達が小学生だった頃のこと。
─────
───
私は涼太との下校中に不審者に襲われたのだ。
無理やり私の腕を握り、
引っ張っていこうとする不審者に
涼太は小学生ながらも立ち向かってくれた。
私を引き離し、不審者の前に立ちはだかる涼太。
両手を大きく広げて、私を守ってくれた……。
不審者はおもむろにポケットからナイフを取りだし
まだ幼い彼のお腹に突き刺したのだ。
その光景は、今でもトラウマのように
私の脳裏に焼き付いている。
異変に気づいてくれた大人の人が
警察を呼んでくれて、不審者は無事逮捕された。
涼太も一時は危ない状態だったが
手術の末、無事回復し退院することができた。
───
─────
今でもその時負った傷跡は、彼のお腹に残っていて
私はいつもいたたまれない気持ちになる。
私を守る背中は、あの頃と何も変わらない。
たとえゾンビになったとしても私を守ってくれる涼太。
そして、いつの間にか銃声は鳴り止み
彼は再びゆっくりと地面へと倒れた。
泣きそうになっている私を見て
少しほっとしたように表情を緩める涼太。
そして彼はゆっくりと目を閉じた。
私は彼の冷たい身体をぎゅっと抱きしめる。
今度こそ本当に死んでしまったのかもしれない。
そんな不安がよぎり、今にも泣き出しそうな私に
茂みの方から誰かが声をかける。
とっさの出来事に身体が固まる。
現れたのは、しわくちゃで今にも倒れそうな
ヨボヨボのおじいさんだった。
その見た目はまるで──
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!