おじいさんはやけにゾンビに詳しかった。
ワクチンのことに関しても
何か知っているんじゃないかと期待に胸を膨らます。
涼太の今までの不可解な行動は、
人間だった頃の習慣が残っているだけだと思っていた。
でも、すべて生存のために必要なことだったらしい。
こうして私たちはおじいさんのご厚意に甘え、
しばらくダンボールハウスに滞在することになった。
そして3日が経過し、涼太が動けるようになってからは
それはそれは大変だった。
涼太が度々おじいさんに襲いかかるようになったのだ。
まるで大型犬を躾けるかのように注意すると、
涼太は不満そうにぴたりと動きを止める。
感心したように涼太を観察するおじいさん。
その視線が不快なのか
威嚇体勢に入った涼太に私はまたため息をついた。
───────そして一週間後。
涼太の傷口はほとんど塞がっていた。
川から捕まえてきた魚を、私の目の前に
ずいっと差し出す彼。
その魚を受け取ると、
嬉しそうにまた川のほうへヨタヨタと歩いて行く。
あの速度でどうやって捕まえてくるんだろうか。
まるで飼い主に獲物を自慢する犬猫のような行動に、
私は少しだけ嬉しくもあり、悲しくもあった。
───────
─────
むかついた私は涼太に軽く拳をお見舞いする。
─────
───────
なんて、ふざけてジュースを奪い取ったりして
仲良く追いかけっこをしたこともあったっけ。
そうポツリと呟いて、また少し虚しい気持ちになる。
涼太を元に戻せなかったら
こんな生活がずっと続くんだろうか……。
言い知れぬ不安が少しずつ募っていく。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。