第12話

涼太とゾンビの身体
3,818
2023/09/22 09:00
 おじいさんはやけにゾンビに詳しかった。

ワクチンのことに関しても
何か知っているんじゃないかと期待に胸を膨らます。
狩野なつめ
狩野なつめ
ワクチンを作るには
どうすればいいんですかね?
隣町のラボがウイルス流出の
原因だって聞いたんですけど……
おじいさん
さあな
そこまではワシにもわからん
狩野なつめ
狩野なつめ
そう、ですか
おじいさん
そう落ち込むな
生きておることがわかったんじゃ
だが、このままじゃ長くはもたんぞ
狩野なつめ
狩野なつめ
え!?
おじいさん
こやつは何か食べるのか?
狩野なつめ
狩野なつめ
涼太ですか?
定期的に栄養ゼリーを
飲んでますね……
もうストックは
無くなりそうですけど
おじいさん
そうか、なら安心だ
食事は欠かしてはならん
生きておると言うことは
栄養を補給する必要があるからな
狩野なつめ
狩野なつめ
じゃあトイレもですか?
おじいさん
そうじゃ
何もしないままだと
いずれゾンビたちは衰弱して
本当の死を迎えるじゃろう
狩野なつめ
狩野なつめ
本当の死……

涼太の今までの不可解な行動は、
人間だった頃の習慣が残っているだけだと思っていた。

でも、すべて生存のために必要なことだったらしい。
おじいさん
なんにせよ、こやつがもう少し
回復するまでは面倒をみてやる
隣町への橋は封鎖されとるしな
狩野なつめ
狩野なつめ
ありがとうございます…!
 こうして私たちはおじいさんのご厚意に甘え、
しばらくダンボールハウスに滞在することになった。

そして3日が経過し、涼太が動けるようになってからは
それはそれは大変だった。

涼太が度々おじいさんに襲いかかるようになったのだ。

周央涼太
周央涼太
ゥガァア!!
おじいさん
うわああ!
狩野なつめ
狩野なつめ
ダメでしょ涼太!やめなさい!
おじいさんは命の恩人なのに
襲いかかっちゃダメ!
まるで大型犬を躾けるかのように注意すると、
涼太は不満そうにぴたりと動きを止める。
周央涼太
周央涼太
ゥウ……
狩野なつめ
狩野なつめ
すみません
隙あらば噛みつこうとしちゃうみたいで
おじいさん
カッカッカ!
いいんじゃいいんじゃ
やはり、ゾンビの本能には抗えんか
狩野なつめ
狩野なつめ
そうみたいですね
おじいさん
だが、嬢ちゃんの言うことは
しっかりと聞くんじゃな
狩野なつめ
狩野なつめ
どうしてでしょうか?
おじいさん
さあな
ワシだけに噛みついてくるところをみるに
嬢ちゃんだけは仲間と認識して
おるんじゃろう……珍しいゾンビじゃ
感心したように涼太を観察するおじいさん。

その視線が不快なのか
威嚇体勢に入った涼太に私はまたため息をついた。




​───────そして一週間後。

涼太の傷口はほとんど塞がっていた。

周央涼太
周央涼太
ゥ!
狩野なつめ
狩野なつめ
え、また魚を捕まえてきたの?
川から捕まえてきた魚を、私の目の前に
ずいっと差し出す彼。

狩野なつめ
狩野なつめ
あ、ありがとう?
周央涼太
周央涼太
ゥ!
その魚を受け取ると、
嬉しそうにまた川のほうへヨタヨタと歩いて行く。

あの速度でどうやって捕まえてくるんだろうか。

まるで飼い主に獲物を自慢する犬猫のような行動に、
私は少しだけ嬉しくもあり、悲しくもあった。
狩野なつめ
狩野なつめ
前は自販機のジュースすら
くれなかったのにな……

​───────
​─────
狩野なつめ
狩野なつめ
それ、美味しい?
周央涼太
周央涼太
ん、うまい
夏季限定のメロンジュースだってさ
あげねーよ?
狩野なつめ
狩野なつめ
ケチ
ちょっとくらいいいじゃん
周央涼太
周央涼太
飲みたいなら自分で買えよな〜
狩野なつめ
狩野なつめ
涼太は勝手に私のジュース飲むくせに
周央涼太
周央涼太
なつめは隙だらけだからな〜
取られる方が悪いんだよ!
狩野なつめ
狩野なつめ
うっざー!
むかついた私は涼太に軽く拳をお見舞いする。
周央涼太
周央涼太
いってえ!
狩野なつめ
狩野なつめ
隙あり
周央涼太
周央涼太
あ!おい、返せって!!
​─────
​───────


なんて、ふざけてジュースを奪い取ったりして
仲良く追いかけっこをしたこともあったっけ。
狩野なつめ
狩野なつめ
涼太はもう、
あの頃のことなんて
忘れちゃってるのかな
そうポツリと呟いて、また少し虚しい気持ちになる。
周央涼太
周央涼太
…ゥ?
狩野なつめ
狩野なつめ
あ、ありがとう
また魚とってきてくれたんだ


涼太を元に戻せなかったら
こんな生活がずっと続くんだろうか……。

言い知れぬ不安が少しずつ募っていく。



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