涼太が望んでいたデートコースは、
残すところゲームセンターだけとなった。
私たちは都市の中心部にあるゲームセンターに入った。
ゲームセンターの隅には
レンタル式のモバイルバッテリーが置いてあり、
しばらくそれを借りてスマホを充電することにした。
涼太の視線の先には、大きなクレーンゲーム。
中にはうさぎのぬいぐるみがあった。
人間だった頃の彼なら見向きもしない
可愛すぎる造形をしている。
なぜか少し目をキラキラとさせている涼太を見て、
しょうがないなぁとお金を入れた。
そう言って操作レバーを握ろうとすると、
ずいっと彼が体を寄せてレバーを横取りした。
じっと真剣な顔でぬいぐるみを見つめ、
おぼつかない手つきでレバーを動かす彼。
衝撃的な光景にしばらくぼーっと
彼の横顔を見つめていると、
アームがガッチリとぬいぐるみを掴み運んでいく。
ストンとぬいぐるみが
取り出し口へと吸い込まれていき、
彼はなぜか勝ち誇ったようなドヤ顔をしている。
なんだかまるでその表情は、
人間だった頃の涼太に見えて───。
彼は、なぜかそのまま
ぬいぐるみを私に差し出した。
彼は無表情で何を考えているかわからない。
でも、きっと私のために取ってくれたのだと思って
ありがたく受け取った。
涼太から何かプレゼントをもらったのは、
小さい頃以来初めてだった。
初めてもらったプレゼントは幼稚園の頃に
作ってもらった、たんぽぽの花冠。
あまりにも嬉しくて、お母さんに頼んで
押し花にしてもらったくらいだ。
彼の照れくさそうな顔も言葉も、何もかも
鮮明に覚えている。
と、そんなことを思い出していると、
突然ゲームセンター内に甲高い声でアナウンスが
鳴り響いた。
充電していたスマホからも警報音が鳴り響き、
私たちが通れなかった橋の門が破壊されている
ニュース映像が流れてくる。
ゲームセンター内は、悲鳴をあげながら
走り出すものや、まだ余裕そうにゲームを
続ける人など、カオスな状況だ。
そう言って涼太の手をとり、
私は慌ててスマホで地図アプリを開いた。
焦る気持ちの中、はっと隣にいる涼太を見る。
ゾンビだとバレるのも時間の問題だ。
もしバレたら、
その場で彼がどんな目にあうかわからない。
彼の安全が最優先だ。
私たちはゾンビが到達する前に
ラボへ向かうことに決めた。
─────そして人々がシェルターに避難し、
街はしんと静まり返った。
涼太を引っ張りながら歩き、ラボの方角へと向かう。
ちらほらと逃げ遅れた人たちや、
危機感なく余裕そうに日常を送っている人とすれ違う。
涼太の歩く速度が遅いから
私も少し油断していたのかもしれない。
ぷーっと音が鳴り、近くのバス停にバスが停まった。
よく見るとそのバスにはゾンビたちが乗っていて……。
ゾロゾロとバスから降りるゾンビたち。
油断し切っていた人々が慌てて逃げ出す。
その中に、今朝会ったチャラ男たちの姿もあった。
多勢に無勢。
チャラ男たちがゾンビに囲まれていく。
無意識に体が動いてしまったけど、
涼太がぐっと私の手を握ってその場から
微動だにしなかった。
そんな押し問答をしていると
突然後ろから呻き声が聞こえた。
そして、振り向くと
そこには口を開けたゾンビがいて───。
ゾンビが何かを噛みちぎる音がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。