涼太の手を引いて、私は慌てて近くにあった
大型デパートへと逃げ込んだ。
木を隠すなら森の中。
あえて人の多い場所へを選んで身を隠す作戦
というわけだ。
追手を撒いて多目的トイレに駆け込んだ私は、
また彼の正体がバレないようにフードを深々と被せ、
マフラーをしっかりと巻き直した。
だけどなぜか涼太は反省していない様子で、
ぷいっとそっぽを向く。
声色から少し怒っている様子が伺える。
私の言葉が気に食わなかったのか、
彼は余計に機嫌を損ねて背を向けた。
途方に暮れて少し目を離した矢先、
涼太は怒った様子でトイレのドアを開けて出て行った。
慌ててトイレから飛び出し、先を歩く彼を追う。
タイミング悪く、その前方から警察官がやってくるのが見えた。
涼太はフードを深く被っているし、
下を向いて通り過ぎればバレないはず。
私は息を潜め、彼の服の袖を掴む手に力が入った。
案の定、すれ違い様に声をかけられてしまう。
大丈夫かな?
声、震えてない?
涼太の方へ向き直る警察官。
私は、ごくりと息を飲む。
なんとかその場をやり過ごして、
足早にその場を去ろうとしたその時───。
申し訳なさそうに、
涼太のフードに手を伸ばす警察官。
やばい!と思った私は、
また涼太の手を引き走り出した。
あまりの緊張に手には汗が滲んでいる。
ヨタヨタと引っ張られるようにしてついてくる涼太。
その後ろを少し遅れて警察官が追ってくる。
幸か不幸か大型デパートの紳士服売り場は
死角が多かった。
陳列棚をかき分けて警察官の目を盗み、
私達はちょうど空いていた試着室に身を潜めた。
狭い試着室の中で身体を密着させ、
涼太の口を手で塞ぐ。
涼太の体はやけに冷たくて、
人ではなくゾンビになってしまったことを
改めて思い知る。
警察官の足音が徐々に遠ざかっていく。
しばらく待っても戻ってこないことを確認して、
ほっと息をついた。
すると、彼が居心地が悪そうにもぞもぞと身じろいだ。
ふい、と気まずそうに顔を背ける彼がなんだか
照れているように見えて……。
なんだかくすぐったいような気分になって
私も彼から目を逸らした。
ゾンビになってから、涼太の素直な気持ちが前よりも
ストレートに伝わってきて少し慣れない。
前は嫉妬したり照れたりなんて、しなかったのに。
しばらく感傷に浸った後、
この後どうするかを考えることにした。
隠れている場所は紳士服売り場のど真ん中。
デパートにはスタッフも買い物客も沢山いる。
私はとある画期的なアイデアを思いついた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。