突然現れたおじいさんは手際よく涼太を背負って
「ついてきな」と近くの河川敷へと案内してくれた。
慌てて後ずさると、おじいさんは
カッカッカと前歯のない口を大きく開けて笑った。
あだ名にしては見た目はゾンビすぎる気も。
青白い顔にヨロヨロと歩く姿はゾンビそのものだし。
きっとゾンビの群に紛れ込んだら
見分けがつかないだろう。
図星をつかれ、慌てて話題を変える。
ゾンビを全く怖がらない人には初めて出会った。
おじいさんは臆することなく涼太をおぶって、
ヨタヨタとおぼつかない足取りで先を歩く。
そう言ってカッカッカとまた
能天気に笑うおじいさんに、
私の心がすっと軽くなった気がした。
立派なダンボールハウスの前に辿り着き、
おじさんは涼太の身体をゆっくりとおろした。
ダンボールハウスのビニールシートを捲り上げると、
中にはこじんまりとした空間が広がっていた。
小さい頃、涼太と作った小さな秘密基地によく似ていて
なんだかすごく懐かしい気持ちになった。
ぐったりとした涼太の身体を引きずって、
ハウスの中へと横たわらせた。
意外だと思ったのが顔に出てしまったのか、
そんな私を見ておじいさんはハウスの中の荷物から
大きなカバンを引っ張り出した。
そのカバンを開けると、
そこには医療用の応急手当セットが入っていた。
そして、聴診器を取り出して心音を聞き始めた。
私は慌てて涼太の胸に直接耳を当てた。
───ドクン…ドクン…。
確かに、ゆっくりと心臓が動いて脈を打っている。
新しい情報に脳が追いつかない。
つまり、涼太はゾンビだけどまだ死んでいなくて……?
混乱する私を放っておじいさんは話を続ける。
ふとおじいさんの手元を見ると、止血は終わっており
涼太の患部にはしっかりと包帯が巻かれてあった。
感極まって手を握ると、
おじさんはまたカッカと笑った。
おじいさんのしわくちゃ顔を真っ直ぐ見つめると、
優しそうな目尻にシワが寄った。
それは、手探りで歩く暗闇の中に
かすかな希望の光が見えた瞬間だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!