私達2人の目的地は、隣町のラボ。
そのラボがウイルス流出の原因だとしたら、
そこにはきっと涼太が人間に戻るヒントもあるはず。
バイクで冷たい風を切りながら、ひたすら前に進む。
隣町に行くには大きな山を越えて、
大きな橋を渡らなければならない。
橋まであと3キロというところまで
差し掛かった頃、予期せぬ事態が起きた。
突然バイクがエンストして動かなくなってしまった。
そういう時はバイクに毛布をかけて温めればいいって、
確か前に涼太が言ってたっけ。
涼太と私はそのまま、
バイクを押しながらゆっくりと歩き始めた。
以前は涼太の方が足が速くて、
私は後ろを追いかけるのでやっとだったのに
今では正反対だ。
よたよたとゾンビ歩きの涼太は、
70歳のおじいちゃんよりものんびりとした速度だ。
返事はないけど、きっと届くはず。
そう信じて、私は涼太との楽しかった思い出を
話し始めた。
懐かしくも愛しい涼太との思い出は、
私にとっては宝物のようだった。
気がつけば、人間の涼太には口が裂けても言えない
当時の恥ずかしい気持ちまで
ゾンビの涼太にはあけすけに語ってしまっていた。
ぼそっと独り言のようにそう呟いたら、
ピタリと涼太の足が止まった。
振り返って彼の表情を見る。
変わらず目は濁っていて焦点は合わない。
だけど、ほんのりと耳が赤くなっているように見えて
なんだか私の方が恥ずかしくなった。
自分の頬が少しだけ熱を帯びた。
───寒空の下、徐々に日が落ち始める夕暮れ時。
山を越えて、坂の下にやっと大きな橋が見えてきた。
あれを渡れば隣町に行ける。
だけど、どこか様子がおかしい。
橋の前には巨大な門が増設されてあり、
固く閉じられていた。
まるで誰も通さないと言っているように、
橋が封鎖されていたのだ。
そして門の前には複数人の自衛隊員たちが
銃を持って待機している。
そりゃそうか。
ゾンビの感染を食い止めるには、検問が必要だ。
妙に納得して途方に暮れる。
検問があるならどう見てもゾンビの姿をした涼太は
きっとあの門を通ることはできない。
私たちは木陰に身を潜め、
自衛隊員たちが離れる隙を伺うことしかできなかった。
────パァン!
突然、耳をつんざくような銃声が聞こえ
横に立っていた涼太がゆっくりと倒れる。
その光景はあまりにも残酷で、
スローモーションのように見えた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。