第6話

ゾンビの涼太
4,361
2023/08/18 10:14

 私達2人はとりあえず
安全な家に避難することにした。
狩野なつめ
狩野なつめ
うちは今のところ安全だから
周央涼太
周央涼太
……
相変わらず涼太は何も答えてくれない。

握った手からは冷たい体温が伝わってきて、
彼がゾンビになってしまったのだと
まざまざと思い知った。
狩野なつめ
狩野なつめ
今はこれでいいんだ
一緒にいられるだけで
そう自分に言い聞かせ、
私は涼太をリビングへと引っ張っていった。

テレビをつけると、アナウンサーが緊迫した表情で
ニュース速報を伝えている。
アナウンサー
各地の情報によると噛み傷からの感染が
予想されるとのことです
顔見知り、家族、友人だとしても
感染者には不用意に近づかず
噛まれないように注意して下さい
どのチャンネルも、流れているのは
未知のウイルスに関するニュースばかり。

ネットでもSNSでも
あらゆる情報が飛び交っていて真偽はわからない。

そして、涼太のような感染者の情報は
どこにもなかった。
狩野なつめ
狩野なつめ
襲ってこないゾンビ
涼太しかいないのかな?
周央涼太
周央涼太
……
隣に座らせた涼太は食いつくようにテレビを見て、
ヨダレを垂らしていた。
周央涼太
周央涼太
ぅぁ……
さらに「ぐぅ~~」とお腹の鳴る音が聞こえてきて、
彼がテレビに映る人間を見て
お腹を空かしていることがわかった。
狩野なつめ
狩野なつめ
人間ってそんなに美味しそう?
周央涼太
周央涼太
……ぁ
狩野なつめ
狩野なつめ
じゃあなんで私は噛まないの?
周央涼太
周央涼太
……
何も答えずただお腹を鳴らす彼を見て、
私は仕方なくキッチンへと向かった。

正直食欲なんて湧かないけど、買い置きしてあった
インスタントラーメンにお湯を注ぐ。
狩野なつめ
狩野なつめ
これ、食べれる?
そう言って目の前に差し出すと
彼は嫌そうに顔をしかめた。

周央涼太
周央涼太
ぅう……!
狩野なつめ
狩野なつめ
いらないの?
でも、そのままじゃ
お腹空いたままだし……
お腹が空いて耐えられなくなったら、
彼は非常食の私を食べるんだろうか。

少しぞっとして私はキッチンの棚を漁った。
狩野なつめ
狩野なつめ
あ、これ
買い溜めしてあった栄養ゼリーを見つける。
狩野なつめ
狩野なつめ
私が好きなゼリー!
涼太、これは?
そう言って差し出してみると、彼がすっと手にとった。

小さなキャップを器用に開けて
何も言わずにゼリーを飲む彼を見て、
私は少しだけ虚しくなった。

狩野なつめ
狩野なつめ
それ、好きじゃなかったくせに……
周央涼太
周央涼太
……




─────
───
周央涼太
周央涼太
何飲んでんの?
狩野なつめ
狩野なつめ
これ?栄養ゼリー!
ビタミンCが入ってるやつなんだけど
味が好きで~、ってちょっと!
言い終わる前に彼がゼリーを奪って勝手に飲んだ。

周央涼太
周央涼太
うえっ!変な味~~!
こんなのどこが美味いんだよ
狩野なつめ
狩野なつめ
勝手に飲むなバカ!
周央涼太
周央涼太
そんな怒らなくてもいいだろ、ケチ
俺らちっちゃい頃から
アイスとかジュースとか
分け合ってきたじゃん
狩野なつめ
狩野なつめ
だって……
間接キスになっちゃうでしょ。
意識してるの、私だけなの……?
───
────



あの時はつい強い言葉で怒ってしまったっけ。

そんな休み時間の一コマを思い出して、
もうあの頃の涼太はいないんだと実感した。
狩野なつめ
狩野なつめ
絶対に元に戻すって決めたはずなのに

そう決意をしたのに、
「ゾンビの涼太」と向き合うたびに心は揺れ動いた。




 それから私達はしばらくの間
安全な家での時間を過ごすことにした。

ゾンビになった彼は度々思わぬ行動を取るので、
私は驚かされてばかりだった。

狩野なつめ
狩野なつめ
きゃあああああ!何!?
私がお風呂に入っていると、
躊躇なくドアを開けてお風呂に入ろうとする彼。
狩野なつめ
狩野なつめ
てかなんで脱いでるの!?
出てって!
周央涼太
周央涼太
……ぅ?
思わず彼を追い出して慌ててお風呂から出ると、
彼は素っ裸のまま待っていて、
やっとかと言わんばかりに彼はお風呂に入っていた。


それに……。
狩野なつめ
狩野なつめ
あれ?
今、トイレから出てきた……よね?
ゾンビもトイレ行くの!?
周央涼太
周央涼太
……
知らないうちにトイレにも行っていたり。
狩野なつめ
狩野なつめ
もしかして、人間の頃の習慣が
抜けてないのかな?
ゾンビの涼太は、
人間のような行動を繰り返していた。

狩野なつめ
狩野なつめ
ゾンビのくせに生意気なヤツ
周央涼太
周央涼太
……ぅあ
くんくんと彼の匂いを嗅ぐと、
腐臭なんてもちろんしないし、
お風呂上がりのシャンプーのいい香りがした。

狩野なつめ
狩野なつめ
変なの!
周央涼太
周央涼太
ぅ……?
私の行動にこてんと首をかしげる涼太。

栄養ゼリーも定期的に飲んでいるので、
そういうものなのだろうと私は思考を放棄した。




そんな生活が1週間ほど続いたある日、
突然インターホンが鳴った。


───ピンポーン。
狩野なつめ
狩野なつめ
ひっ!!誰?!
警戒していた私は
とりあえずインターホンのモニターをつけた。

そこには、見知った顔が映っていて──。
狩野なつめ
狩野なつめ
お母さん……?

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