私達2人はとりあえず
安全な家に避難することにした。
相変わらず涼太は何も答えてくれない。
握った手からは冷たい体温が伝わってきて、
彼がゾンビになってしまったのだと
まざまざと思い知った。
そう自分に言い聞かせ、
私は涼太をリビングへと引っ張っていった。
テレビをつけると、アナウンサーが緊迫した表情で
ニュース速報を伝えている。
どのチャンネルも、流れているのは
未知のウイルスに関するニュースばかり。
ネットでもSNSでも
あらゆる情報が飛び交っていて真偽はわからない。
そして、涼太のような感染者の情報は
どこにもなかった。
隣に座らせた涼太は食いつくようにテレビを見て、
ヨダレを垂らしていた。
さらに「ぐぅ~~」とお腹の鳴る音が聞こえてきて、
彼がテレビに映る人間を見て
お腹を空かしていることがわかった。
何も答えずただお腹を鳴らす彼を見て、
私は仕方なくキッチンへと向かった。
正直食欲なんて湧かないけど、買い置きしてあった
インスタントラーメンにお湯を注ぐ。
そう言って目の前に差し出すと
彼は嫌そうに顔をしかめた。
お腹が空いて耐えられなくなったら、
彼は非常食の私を食べるんだろうか。
少しぞっとして私はキッチンの棚を漁った。
買い溜めしてあった栄養ゼリーを見つける。
そう言って差し出してみると、彼がすっと手にとった。
小さなキャップを器用に開けて
何も言わずにゼリーを飲む彼を見て、
私は少しだけ虚しくなった。
─────
───
言い終わる前に彼がゼリーを奪って勝手に飲んだ。
間接キスになっちゃうでしょ。
意識してるの、私だけなの……?
───
────
あの時はつい強い言葉で怒ってしまったっけ。
そんな休み時間の一コマを思い出して、
もうあの頃の涼太はいないんだと実感した。
そう決意をしたのに、
「ゾンビの涼太」と向き合うたびに心は揺れ動いた。
それから私達はしばらくの間
安全な家での時間を過ごすことにした。
ゾンビになった彼は度々思わぬ行動を取るので、
私は驚かされてばかりだった。
私がお風呂に入っていると、
躊躇なくドアを開けてお風呂に入ろうとする彼。
思わず彼を追い出して慌ててお風呂から出ると、
彼は素っ裸のまま待っていて、
やっとかと言わんばかりに彼はお風呂に入っていた。
それに……。
知らないうちにトイレにも行っていたり。
ゾンビの涼太は、
人間のような行動を繰り返していた。
くんくんと彼の匂いを嗅ぐと、
腐臭なんてもちろんしないし、
お風呂上がりのシャンプーのいい香りがした。
私の行動にこてんと首をかしげる涼太。
栄養ゼリーも定期的に飲んでいるので、
そういうものなのだろうと私は思考を放棄した。
そんな生活が1週間ほど続いたある日、
突然インターホンが鳴った。
───ピンポーン。
警戒していた私は
とりあえずインターホンのモニターをつけた。
そこには、見知った顔が映っていて──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。