幸いにも隠れる場所として選んだのは大型デパートだった。
そのお蔭で私はとあることを閃いた。
何かを企むようにニヤリと笑うと、
涼太は渋々「ァア…」とうめき声をあげた。
私は試着室から出て、色んな階を周り
テキパキと目的の服やメイク道具を手にいれる。
家から持ち出したお金を使うのは
少し抵抗があったけど、
そんなことは言ってられない状況だ。
袋を両手に抱え、私はまた人目を避けて
涼太のいる試着室へと戻る。
たくさんの袋を持つ私を不思議そうに眺める彼。
彼が着込んでいた防寒具や服を強引に脱がせていく。
こんなこと、人間だった頃には恥ずかしくてできなかっただろうけど。
青白い死体のような身体が顕になっても、
涼太は未だ何が起こったのか分からず
あっけに取られているようだ。
肌色のファンデーションを袋から取り出して
私は高らかに宣言した。
一度メイクというものを涼太に
やってみたかったのだ。
顔立ちが整っているから、
きっと女装でもなんでも似合うはずだ。
メイクなんてしようものなら、
私が返り討ちにあっていただろう。
そんなことを考えながら手を動かし、
青白い肌に血色の良い肌色をのせていく。
コンシーラーで顔の傷も隠し、
少し赤みのあるチークを頬に置く。
みるみるうちに人間らしさを取り戻し、
以前の涼太に戻っていった。
そして極めつけはカラーコンタクト。
薄茶色のコンタクトをそっと入れてあげると、
瞳孔が開いて少し濁っていた目が、
生気を取り戻したように輝いて見えた。
それはどこからどう見ても、人間の頃の涼太で━━。
感極まった私は、
思わず私は彼に抱きついてしまった。
人間の彼に言いたかった言葉が溢れ出してくる。
そのせいで、涙まで溢れそうになって
彼の胸に顔を埋めた。
だけど目の前の裸の胸板に気づき、
慌てて身を引く。
目の前にいるのはどう見ても人間の頃の涼太で、
急激に恥ずかしくなってくる。
頬が熱くなり、急いで買ってきたばかりの服を
彼に着せた。
服を強引に着せられ、少しむすっとした顔の彼。
でも私がチョイスした服装は涼太にとても似合っていた。
私の好みのまま買ってきたわけだから
好きな系統の服なのは当然だけど……。
ぽつりとつぶやいた言葉は、
ただ狭い試着室の中に響いた。
そんな私を見て、涼太はふいに試着室から
出て行こうとする。
待ってろと言わんばかりの声色に少し怯む。
肌に血色が戻ったお陰か、
前よりも感情を読み取りやすくなったみたいだ。
ゆっくりと頷いたかと思うと、
彼はそのまま私を置いて試着室から出て行った。
しかも私の手から財布を奪って。
そして数分後、涼太が袋を持って戻って来て、
それを私に押し付けてくる。
押し付けられた袋の中を見てみると、
それは私が着たことのない少し大人っぽい
ニットのワンピースだった。
なんだか少し恥ずかしそうに目線を逸らす彼。
なんだかすごく、くすぐったい気持ちになって
慌てて涼太を試着室から追い出す。
彼の生意気な行動に少し困惑してしまった。
だけどその行動がすごく嬉しくて、
私はそっとワンピースを抱きしめた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。