私はさっそく、涼太が用意してくれた
ニットワンピースに袖を通した。
真っ白でふわふわで、肌触りがすごくいい。
それでいて、着るとピッタリ体のラインが出る
大人っぽい印象だ。
少しの気恥ずかしさとともに、
私はそっと試着室から出た。
じっとこちらを見る彼の視線に耐えられなくなり、
ぶっきらぼうに質問を繰り出す。
腑抜けた唸り声をあげた彼の手を取って、
私は気恥ずかしさを隠して先を歩く。
デートコーデに身を包み、手をとって歩く私たちが
デパートのショーウィンドウに映っている。
それは、どこからどう見てもカップルにしか見えない。
半ば自分に言い聞かせるようにそう言うと、
涼太が「ああ」と快く返事をした気がした。
それはただの唸り声で、私の幻聴だったけど。
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あの時はなぜか「好きな人」に関して小一時間
問い詰められた記憶がある。
あんなこと聞かなきゃよかったって、
後から後悔したっけ。
なんて、新しい言い訳も付け加えつつ、
私はデートコースをまわることにした。
─────まずは映画館。
雰囲気が出ると思い、恋愛映画をチョイスした。
こんなご時世だからだろうか、思っていたより
映画館は空いていて、観客は私たちと2組の
カップルしかいなかった。
チラリと隣を盗み見ると、
彼と目が合った。
なぜかこちらを見ており、
大きなスクリーンには見向きもしない。
そう言ったものの、2時間と少しの間
彼はずっとこちらを見ていて
そのせいで映画のストーリーなんて全く頭に
入ってこなかった。
こてんと首を傾げた彼に、観てなかったしな、
と妙に納得してしまった。
────そして次は水族館。
そこでも彼は映画館と変わらず、
大きな水槽を泳ぐ魚には目もくれずに
ずっと私の方を見ていた。
試しにそう言ってみると、
今度は魚ではなく来場しているお客さんの方に
視線を向けた。
まるで獲物を狙うかのような視線だ。
少し不満そうに唸った彼は、
やっぱりどうしようもなくゾンビで───。
せっかくのデートなのに、と少しだけ悲しくなった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。