鬼幽が、私と夜鈴を庇うようにして前に立ち
陽火と陰火が私たちを守るために炎を広げて囲ってくれた。
だが、相手は人間の骨だ。並み大抵の温度じゃ灰になることはない。
炎の壁はすぐに破られ、頭骸骨たちが押し寄せてきた。
そう思って、矢を力強く握り、急いで体勢を立て直そうとした時だった。
夜鈴に力強く突き飛ばされ、頭骸骨に噛まれることは防げたが
そのまま後ろに吹っ飛び木に背中を打ちつける。
鋭い痛みが背中を走り続ける中、顔を上げた。
だが、そこに何千もの頭骸骨に囲まれていたはずの鬼幽と夜鈴の姿はなく。
代わりに、埃や脂のまじった薄黒い汚れをつけた女が池の真ん中にたたずんでいる。
二人は、その女の長く伸びた黒髪に掴まれ、池の真上に引き上げられていた。
瑛生くんを池の中へ引きずり込み、鬼幽の手首を掴んだ黒い”なにか”は女の黒髪だったのだ。
女の黒髪から逃れようと、拘束された両腕に力を入れて必死に抵抗している。
だが、あがけばあがくほど黒髪は鬼幽と夜鈴の体にくい込み、二人の服に赤黒い血が滲んでいった。
そんな状況で鬼幽が陽火と陰火を呼ぼうとしたが、
その度に何千もの頭骸骨が邪魔をして火の玉たちは近づけずにいた。
そんな時、黒髪の女と視線が絡み合った。
何かに魂を奪われたかのような虚ろな目だ。
でも、どうして。
それに反した、何かを訴えるような視線をこちらに向けるのだろうか。
”こわして”
長い間、顔を洗っていないことが分かる
垢が固まりついた唇がそう動いた気がした。
私がその場にゆっくりとした動きで立ち上がると
女の髪は目にも留まらぬ速さでこちらに伸びてくる。
それに気づいた鬼幽は、自分の両腕を拘束している髪を引きちぎり
体に巻きついている女につながる髪を自分の方へと思いきり引っ張った。
すると、私に向かって伸びた女の髪は私に触れる寸前で静止した。
近くで見て気がついたが、女の髪は一本一本、刃のように鋭い。
女の髪を掴んだ鬼幽の手からは血がぽたり、ぽたりと滴り落ちている。
鬼幽と夜鈴は身を挺して私を守ってくれたのに?
そんな二人を置いて、私一人で?
そんなことーー。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!