依頼主に話を聞くために、山間の小さな村にやってきた私たち。
白い空の下に、青々とした稲穂が一面に広がっている景色に魅了され
それを眺めながら歩いていると
私の前を歩いていた、鬼幽が年季の入った趣のある家の前で足を止めた。
念のため、表札を確認すると”塚本”と書かれていたのでこの家で間違いなさそうだ。
鬼幽が玄関チャイムのボタンを押してしばらくすると、錠を外す音がして、扉がゆっくり開き、中から男の人が顔を覗かせた。
鬼幽が、制服のポケットから手紙を取り出し塚本さんに見せる。
すると、塚本さんは呆気にとられたような表情になった。
鬼幽が家の中に入って行ったので、私と夜鈴もその後に続いて中に入った。
家の中は、冷房をつけているのかひんやりとしていて
ずっと外にいて汗を出し続けていていた毛穴が冷房の冷気で引き締められた気がする。
家は古い木造で歩くたびにギシギシと音が鳴った。
塚本さんに案内された部屋の床は畳で、奥には立派な仏壇があり、
その近くには沢山のお中元の箱が積み上げられていた。
どこか、既視感のある部屋に安堵感を覚える。
背中に背負っていた弓と矢を邪魔にならないように畳の上に置き、用意してあった座布団の上に座る。
小馬鹿にするように夜鈴が鼻で笑う、負けず嫌いな私はそれに対して意地をむき出しにした。
夜鈴はふんっ、という効果音が聞こえてきそうな程に勢いよくそっぽを向く。
その時、部屋の襖が開く音がした。
麦茶を持っている塚本さんの横には、人見知りなのか私たちを極力見ないようにして
ピッタリと塚本さんにくっついて離れない男の子がいた。
春翔くんは声をかけられて驚いたのか肩を震わせたあと、私に向かって挨拶をするように頭を下げた。
なんだ、いい子じゃないか。
塚本さんは春翔くんと一緒に、私たちに向かい合うようにして畳の上に座って、話し始めた。
春翔くんは、塚本さんに抱きつく力を強めただけで何も言わない。
春翔くんは、しばらく鬼幽の目を見つめたあとポツリ、ポツリと話し始めた。
春翔くんの目に、みるみるうちに涙がたまって顔が歪む。
そのうち目にためきれなくなった涙が溢れ始めた。
話を黙って聞いていた、夜鈴が立ち上がり部屋の出口に近づいて行った。
春翔くんはこの2日間、友達のことが心配でずっと気を詰めていたのだろう。
鬼幽の言葉を聞いて、安心したのか強ばっていた顔の表情が柔らかくなった。
覚悟を決めるように、私は弓を握る手に力を込めた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!