第14話

鐐ノ池
372
2024/01/27 00:55 更新

依頼主に話を聞くために、山間の小さな村にやってきた私たち。

白い空の下に、青々とした稲穂が一面に広がっている景色に魅了され


それを眺めながら歩いていると
鬼幽
ここだ、塚本圭一さんの家

私の前を歩いていた、鬼幽が年季の入ったおもむきのある家の前で足を止めた。

念のため、表札を確認すると‪”‬塚本‪”‬と書かれていたのでこの家で間違いなさそうだ。


鬼幽が玄関チャイムのボタンを押してしばらくすると、じょうを外す音がして、扉がゆっくり開き、中から男の人が顔を覗かせた。
鬼幽
塚本圭一さんですか?
塚本 圭一
あ、はい。そうですが…どちら様でしょうか?
鬼幽
僕は鬼幽です
鬼幽
この手紙の差出人はあなたで間違いありませんか?

鬼幽が、制服のポケットから手紙を取り出し塚本さんに見せる。

すると、塚本さんは呆気にとられたような表情になった。
塚本 圭一
あなたが鬼幽さんだったんですね!本当に来て下さるとは思ってもみませんでした、ありがとうございます
塚本 圭一
どうぞ、中にお入りください。
鬼幽
お邪魔します
神代 あかり
お邪魔しまーす
夜鈴
邪魔するね〜

鬼幽が家の中に入って行ったので、私と夜鈴もその後に続いて中に入った。


家の中は、冷房をつけているのかひんやりとしていて
ずっと外にいて汗を出し続けていていた毛穴が冷房の冷気で引き締められた気がする。


家は古い木造で歩くたびにギシギシと音が鳴った。

塚本 圭一
どうぞ、こちらの部屋でお待ちください。今、麦茶を出しますんで
鬼幽
いえ、お構いなく

塚本さんに案内された部屋の床は畳で、奥には立派な仏壇があり、
その近くには沢山のお中元の箱が積み上げられていた。

どこか、既視感のある部屋に安堵感を覚える。
神代 あかり
(線香の匂い、おばあちゃん家みたい)

背中に背負っていた弓と矢を邪魔にならないように畳の上に置き、用意してあった座布団の上に座る。
神代 あかり
はぁ〜、ここに歩いてくるだけで疲れた
夜鈴
この程度で疲れたか?人間は貧弱ね
夜鈴
これから妖怪退治するならもと疲れるよ、今から帰るか?

小馬鹿にするように夜鈴が鼻で笑う、負けず嫌いな私はそれに対して意地をむき出しにした。
神代 あかり
私が持ってきた弓12キロぐらいあるから疲れるんだよ
鬼幽
え、気がつけなくてごめん。次から俺が持つよ
神代 あかり
ううん、大丈夫!これぐらい毎日持ってるし余裕!
鬼幽
いや、言ってること矛盾……
神代 あかり
あと、夜鈴!これぐらいの疲れちょっと休めば大丈夫だから!
夜鈴
ならいいね、せいぜい足手まといにならないように頑張ることよ

夜鈴はふんっ、という効果音が聞こえてきそうな程に勢いよくそっぽを向く。

その時、部屋のふすまが開く音がした。
塚本 圭一
どうもお待たせしてすみません。

麦茶を持っている塚本さんの横には、人見知りなのか私たちを極力見ないようにして

ピッタリと塚本さんにくっついて離れない男の子がいた。
塚本 圭一
この子は、私の息子の春翔はるとです
塚本 圭一
ほら、春翔ちゃんと挨拶して
塚本 春翔
やだ……
塚本 圭一
すみません、人見知りなもので……
神代 あかり
大丈夫ですよ、私も春翔くんぐらいの年頃の時はよく人見知りしてたので
神代 あかり
私は、神代あかり。よろしくね春翔くん

春翔くんは声をかけられて驚いたのか肩を震わせたあと、私に向かって挨拶をするように頭を下げた。

なんだ、いい子じゃないか。
鬼幽
塚本さん早速手紙の件についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?
塚本 圭一
ええ、もちろんです

塚本さんは春翔くんと一緒に、私たちに向かい合うようにして畳の上に座って、話し始めた。
塚本 圭一
2日前、春翔とその友達の瑛生えいせいくんがこの家の裏山にある
塚本 圭一
鐐ノしろがねの池に遊びに出かけたところ、春翔が傷だらけで怯えながら家に帰ってきて
塚本 圭一
詳しく事情を聞いたら、瑛生くんは黒いなにかに池に引きずり込まれたと話し出しまして……
塚本 圭一
村の人と一緒に探したのですが、夕方になっても見つからないので警察に通報しました
塚本 圭一
それから、2日経ちましたが未だに見つかっていません
鬼幽
黒いなにか?
塚本 圭一
私も春翔に聞いたのですが、よく分からなくて……
神代 あかり
春翔くん、黒いなにかって何?

春翔くんは、塚本さんに抱きつく力を強めただけで何も言わない。
鬼幽
春翔くん、君の友達を助けるために話を聞きたいんだ。
塚本 春翔
助けるの…、瑛生を…?
鬼幽
うん、そのために話を聞きに来たんだ。その時の状況を話してくれるかな?

春翔くんは、しばらく鬼幽の目を見つめたあとポツリ、ポツリと話し始めた。
塚本 春翔
瑛生が池につくちょっと前にね、どっちが早く池につくか競走だって言ったんだ
塚本 春翔
でも、僕遅いから瑛生が先に池について
塚本 春翔
僕があとから行ったら
塚本 春翔
瑛生が倒れてたんだ、それで僕がびっくりしてたら
塚本 春翔
池から黒い長いのが出てきて瑛生の足に巻きついて
塚本 春翔
そしたら頭だけの骸骨がでてきて…っ

春翔くんの目に、みるみるうちに涙がたまって顔が歪む。
そのうち目にためきれなくなった涙が溢れ始めた。
塚本 春翔
ぼく…っぼく、こわくてひとりで逃げちゃったんだ
塚本 春翔
えいせいはともだちなのに…っ
鬼幽
そっか、話してくれてありがとう
鬼幽
大丈夫、必ず瑛生くんのこと助けるよ
塚本 春翔
……ふ…っ…ひぐ…っほんと?えいせい、たすけられるの?
神代 あかり
ほんとだよ、鬼幽は凄く強いんだから!私の友達も鬼幽が助けてくれたの
神代 あかり
だから絶対大丈夫!
塚本 春翔
うん…っ

話を黙って聞いていた、夜鈴が立ち上がり部屋の出口に近づいて行った。
夜鈴
話は充分聞いたね、もう行くよ
神代 あかり
うん
鬼幽
塚本さん僕たちはもう行きます、鐐ノ池は山を真っ直ぐ登ればつきますか?
塚本 圭一
あ、はい!
塚本 春翔
お兄ちゃん、お姉ちゃん…!僕瑛生に謝りたいんだ、だから絶対に助けてね!

鬼幽
うん、絶対助けるよ

春翔くんはこの2日間、友達のことが心配でずっと気を詰めていたのだろう。

鬼幽の言葉を聞いて、安心したのか強ばっていた顔の表情が柔らかくなった。
神代 あかり
(やっぱり、鬼幽は凄いな)
神代 あかり
(私も、行くって決めたならしっかりやらなきゃ)

覚悟を決めるように、私は弓を握る手に力を込めた。

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