女子「紫薔薇さんってどーしてギャルになったの?」
これは俺が今最も気になってること。
コイツらも案外気になるようで黙って耳を傾けてる。
それからあなたの話した過去は残酷なものだった。
俺、あなたが虐待されてたなんて知らなかった…。
今話しているが隠していたにしても
俺が気づけてあげられてたら……。
あなたは俺を覚えてない。
今のあなたの発言で俺が長いこと抱いていた疑問が
あっさりと、嫌な形で明らかになった。
しばらくショックで、続けられるあなたの話が
俺の耳には届いてなかった。
男子「よし、帰るか!」
男子「紫薔薇の過去とスッピン美人ってことしか
収穫ねーけど…。」
男子「他の女子達何もなさそーだし
もういいだろ。な!うらた。」
漠然とした喪失感に襲われながら
コイツらと逃げるように部屋に戻った。
その後はコイツらはコイツらで
"恋バナ"なるものをやるとか言い始めたが、
当然俺はそんなのに前向きじゃないので
問答無用で布団に入り、誰よりも先に寝た。
次の日。
今日は自由行動だ。
正直あなたに合わせる顔がない。
女子と仲良くなれたからか
過去を話してスッキリしたからか
今日のあなたは明るい。
反対に俺は気持ちが大雨なので
昨日の朝とは真反対のテンションである。
あなたは不思議そうに首を傾げると
担当の先生から班毎の配布品を受け取って
皆に渡していた。
女子「あなたちゃん今日テンション高いねー!」
男子「変わりにうらたのテンションは低いな…。」
男子「うらたマジどーしたよ…?」
俺は、どうしたらいいんだ……?
頭を悩ませぼんやりしたまま
自由行動で皆に付いて行った。
昨日行かなかった観光名所を巡った後
ここらで有名な動物園に入った。
すっかり浮かれる皆に呼びかけるあなた。
皆テキトーな返事をして近くの檻から回り始める。
女子「いってらー!」
男子「俺らちょっとあっち観に行ってくるわー。」
女子「ちょっと!勝手に行動していーの?」
男子「休憩の間だけだって。な?」
女子「え〜。…あ!じゃあ私も行きたいとこある!」
男子「うらたも行こーぜ!」
男子「はーーい。」
それから俺を置いて皆バラバラに散っていった。
大丈夫かな、なんて思っていたらあなたが戻って来た。
2人きり、だ…。
俺のドンヨリとした空気を感じたのか
あなたはパタパタと自販機に向かってった。
それからあなたが帰って来て、
2人で数分沈黙を続けていた。
流石におかしいと2人立ち上がって
皆を探しに行くことにした。
あなたと動物園の入り口前まで来て
マップを確認する。
俺はこの光景にとてつもない既視感があった。
…中学の、時。
中学の修学旅行も、こんなことがあった。
班行動で班員と別れて。
俺とあなたの2人で一生懸命探したっけ。
俺が思い出に浸っていると
途端にあなたが苦しみ始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。