私が記憶を取り戻してから丁度1週間後。
頭の中や気持ちの整理も付いて、
これからについて考え始めた時に
坂田君から呼び出された。
それは体育祭1週間前のこと。
ここ数日、彼の様子も気になっていた。
……あれ、見られてたのか。
何か恥ずかしいな…。
でも何でそれが大事な話に?
私の過去。
坂田君が知りたいのはきっとそうだ。
真っ直ぐな瞳。
私は彼が時折見せるこの瞳が好きだ。
いつもと違って真剣な声。
ふと私の頭をよぎった
「過去を話したら人に嫌われる」なんて言う
気持ちは彼の態度を見たら打ち消された。
私は自分の過去を坂田君に話した。
元母親からの虐待に両親の離婚、
虐待のショックで中学の時の記憶を
全て失い、この間思い出したこと。
ショッキングすぎる内容に
坂田君は瞳を揺らしながらも
真剣に聞いてくれた。
告白を見られていたのならいいだろうと
当時の好きな人を言うと
坂田君はその大きな目から涙を溢し始めた。
私は予想外の反応に慌てる。
坂田君は直ぐに涙を拭って
いつも通りの笑みと大声を発した。
それは彼の本心からのものでも、
必死に繕っているようにも見えた。
「良かった」なんて口では言っても私は心配だった。
私のことを知ろうとしてくれた彼のことを、
私はどれくらい知ってるのだろうか。
彼の涙の意味を、
どれくらい理解してあげられるのだろうか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。