前の話
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私の世界はここで、そこから出ることなんてないと思ってた、君がここに来るまでは
私は小さいとこからここ、西山病院にいる。今は17歳なのに普通の学校なんて行ったことないし、高校生活なんて知らない。前は自暴自棄になったりした時もあったけど、今は諦めてるところもある。それに別に病院での生活が嫌いなわけじゃない。看護師さんもお医者さんも優しいし。外の入学式終わりだろう女子高生を見ながらそんなことを考えていた私は、1番上の兄さんが私を呼ぶ声で我に返った。
「りゆ、りーゆ、入っていい?」
「あ、ごめん、いいよ」
「はい、これ。りゆが好きなやつ」
そう言って兄さんは、私が好きな甘いりんごのケーキを渡してくる。私はそれにお礼を言って、1口食べる。甘いりんごの香りが口に広がる。
「あま。」
そう言って、食べ進める。兄さんはいつも通りマロンタルトを食べている。そうして、食べ終えると兄さんは、会社に戻る。いつも通り、そう、ここまではいつも通りの月曜日だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!