急に呼ばれた本当の名前にピクリと肩を揺らす。
今日は、せっかくてるさんとゲームをしているのに気が付いたら“あのこと”を考えてしまう。
確かに悩みごとなのかもしれない。
だって、今はそのことしか考えられないし。
でも、それをまさかてるさん本人に話すなんて……。
「てるさんは私のことどう思ってるんですか?」とか「てるさん、この前女の人と出かけたんですか?」なんて聞けるわけないよ。
だから私は無理に笑うしかなかった。
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ぴこん、とスマホが音を立てる。
あの日から数日が経った。
いまだにあの日のことはうまく整理できていない。
でも、あのことがほんとならやっぱり、身を引くのが正解なのだと思うから。
胸がつきんと鋭く痛む。
ほんとのような嘘のようなあの一言が、頭の隅にこびりついて離れない。
てるさんが私のことどうでもいいって思ってる。
それも十分ショックだったのだけど、それよりも。
なんて声がこぼれ落ちた。
ってことは恋人……なのかな。
てるさんにお付き合いしている人がいる……。
そっちの方がなんだかすごくショックだった。
そんな風に思う自分がなんだか信じられなくて、ついつい考え込んでしまう。
思い出すのは、親身になって優しく話を聞いてくれる、てるさんのこと。
なんでも相談に乗ってくれて優しくて、かっこいい。
一緒にいると安心して、でもちょっとどきどきして。
ようやく飲み込むことのできたその感情はもう手遅れで。
てるさんが私に振り向くなんてことないのに。
どうしよう、余計にこれからてるさんとどう接していいのかわからない。
一緒に遊んでる時、ふとこの気持ちがあふれてしまったらどうしよう。
また会おうって言われたら? どきどきしすぎてもう隠しきれないかもしれない。
私は、この日初めて、てるさんからの連絡を無視した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。