深結の強烈な手刀で気絶させられた
あの日の翌日の事だ。
俺の目覚めは、至って普通だった。
何の変哲もないごく普通の目覚め。
正直不安しかない。
今、俺が居るのは深結の家だ。
そこに何があるかは分からない。
何故なら、「黒い薔薇」と呼ばれるのだから。
つまり、俺は今警戒を
怠れない状況に置かれている。
そんな時の俺の目覚めを見て、
深結は微笑ましく笑う。
俺に執着してるかもしれないっていう
大きな証拠になりうる事実だ。
咄嗟に出た疑問を、このタイミングで
深結に話してみる事にした。
俺自身の中で、唯一気がかりだった事だ。
それを聞いて、少しだけ安心した。
「黒い薔薇」とはいえども、優しい所はある。
それが分かっただけでも良かった。
「コイツ、一人暮らしなのか…」と、
俺がその事実に驚いていたその時の事だった。
「黒い薔薇」で知られる、深結の洗練された動き。
それを、必死に目で追う。
遭遇してあまり日は経っていないが、
深結の行動にも少しずつ慣れてきた。
あんな短期間で、これくらい慣れれば
深結でもそんな反応はする。
今、それが顕になった。それを感じ取った
俺は心の中でガッツポーズをした。
やらかした、と言うべきだろう。
今の時間で、僅かな隙を見せた俺。
「バカだね♪」という目線を向けてきた
深結の、鋭く重い一撃で再び体勢を崩した。
身体が地面に叩きつけられる直前で、
深結は俺を拾い上げて微笑んだ。
俺自身、俺の事はそのまま放置するかと思っていた。
だが、深結はそんな事はしないだろう。
「黒い薔薇」にも、意思はあるから。
そう言って、深結は拾い上げたはずの
俺の身体を、徐々に押し倒していく。
俺はすぐさま拒絶しようとするが、
深結はそんな事を気にもしなかった。
これは、俗に言う床ドンだ。
俺と深結の顔の距離は、誰が見ても驚く程近い。
片手で俺の動きを抑制しながら、
深結は俺に何かを飲ませた。
この時の俺はノーガードに等しいため、
それを普通に飲み込んでしまった。
床ドンまでされたのなら当然の結果である。
何も出来なかった――ただ、それだけの事を悔やむ。
そして、再び俺は深い眠りについた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。