第9話

第9章
1,494
2019/06/10 09:09
ハヤタさんの部屋を出たところで、廊下にいたショウタくんに気付く。
ユウリ
ユウリ
(……見られた、よね、絶対……)
ショウタくんはお風呂上がりのようで、肩にタオルをかけている。

別に悪いことをしているわけではないのに、なんだか気まずい。
ユウリ
ユウリ
……おやすみなさい
平静を装って、ショウタくんの横をすり抜けようとした。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……兄貴の部屋にいってたのか?
すれ違いざまに声をかけられる。


ハッとして振り返ると、苛立ちを抑えた様子のショウタくんの瞳とぶつかった。
ユウリ
ユウリ
……う、うん……
強い眼差しで見つめられ、言葉を続けずにはいられない。
ユウリ
ユウリ
話があるって呼ばれて……ハヤタさんの、留学のことで……
しどろもどろで応えると、余計に訝しげに目を細められた。
ユウリ
ユウリ
留学、本格的に決まったんだ、って……
だから、その、なんていうか……
これ以上は言えない。


ショウタくんは言葉を被せてきた。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
そんなことなんでわざわざお前だけに話す必要あるんだよ。
みんな集まってるときでいいだろ
ユウリ
ユウリ
そんなこと私に言われても……
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
だいたいなんで呼ばれたからって簡単に兄貴の部屋なんかにはいってんだ?
危機感無さすぎ
ユウリ
ユウリ
!?
なんでそんなこと言うの?
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
お前が抜けてるからだよ!
廊下に声が響く。



ショウタくんもハッとして、声をひそめた。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
ちょっとこい
腕を引っ張られ、ショウタくんの部屋に押し込まれた。
ユウリ
ユウリ
……なんなのよ、もう
わけがわからない。


ドアを閉めたショウタくんは、大きな溜息を吐く。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……悪かったな、怒鳴ったりして
ばつが悪そうに後ろ頭を掻いた。


素直に謝ってくれるところは昔から変わってない。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……なんかさ、お前見てるとイライラするんだよな……
独り言のように呟いて、沈黙が落ちる。
ユウリ
ユウリ
……ショウタくん
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……ん?
ユウリ
ユウリ
就職、おめでとう
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
何だよ、急に。

てか今さら
真意を探るように私の瞳を覗き込んでくる。
ユウリ
ユウリ
……ハヤタさんがね、せっかく家族で繋がりが持てたのに、ここから離れるのが寂しい、って、言ってた
ショウタくんは目を見開いた。
ユウリ
ユウリ
私も、そう思う。
せっかく、お義父さんと、ショウタくんとハヤタさんとの生活が普通になってきたのに、ショウタくんも、ハヤタさんも、ここから離れていってしまったら……
血の繋がりのない私なんて、ふたりにとって本当にただの他人になってしまいそうで……
自分でいいながら、余計に寂しい気持ちになってきた。


ショウタくんは、グッと拳を握りしめる。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……俺だって……
ユウリ
ユウリ
……え?
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
俺だって、そんくらい、考えてたよ
ユウリ
ユウリ
ショウタくん……
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
そもそも他人なんだし、急ごしらえの家族なんて、一緒に暮らしてるって事実だけだろ。

でもそれすらもなくなっちまったら……
言葉を探して、戸惑うショウタくん。


そして彼は意を決したように、顔を上げた。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
お前と離れるのが、なんか嫌なんだ。

イライラするし、見てられないとこもあるけど……

だからかもしれない
……それって……?
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
離れても、俺のこと、ちゃんと想ってて欲しいんだ。

約束が欲しい

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