私が行きたいと言っていたレストラン。
母は少しは私に気を使ってくれたようだ。
少しだけドレスアップした私たち母子。
テーブルを挟んだ向こうには、こちらもまた畏まった様子の父子三人。
柔らかい口調で、大畠さん……いや、お義父さん、は、微笑んでくれる。
母も、同じく綺麗に微笑む。
お義父さん、の前じゃ、こんな感じなのか……
母の様子を窺いながら、自分に注目されている居心地の悪さをどうしよう、と内心焦っていた。
そんな私の様子に気付いたのか、すかさず助け船が。
大学三年生のお義兄さん、のハヤタさん。
お義父さんに似た笑顔を浮かべていたが、スッと引き締め改めて母に向き直る。
綺麗な所作で頭をさげ、きちんとした挨拶をしてくれるところは、さすがだな……と感心した。
年下の私にも、気さくに欲しい言葉をかけてくれるハヤタさん。
きっとモテるんだろうな、カノジョいるんだろうな……
そんなことをぼんやり考えていると、前菜が運ばれてきた。
今回は私の合格祝い、兼、両親の結婚祝いなので、必然的にハヤタさんが仕切ることになる。
グラスを挙げてドリンクをいただき、一息吐いた。
ちらり、と、斜め前の席を窺う。
……さっきから一言も発しない、ショウタくん。
目はあさっての方を向いたまま。
見兼ねたハヤタさんがたしなめる。
わざとらしく大きな溜息を吐いて、ショウタくんは私たちを一瞥した。
棒読み。
母も空気を変えるように、慌てて同意する。
ショウタくんはすかさず手を合わせた。
そうだ。
思い出した。
ショウタくんはおやつなんかを食べる前、いつもきちんと手を合わせて「いただきます」をしていた。
目の前のショウタくんと重なる。
食べ方もきれい。
久しぶりに会ったショウタくんはチャラい印象だったけど、変わってないところもちゃんとある。
私が好きだったところ。
少しだけ安心したからつい、にやけてしまう。
怪訝そうなショウタくんと一瞬、目が合った。
慌てて口元を引き締めたけど、すぐにふいと逸らされた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!