第6話

第6章
1,703
2019/05/20 09:01
ユウリ
ユウリ
はあ……仕方ないなあ……
母が残業で、代わりに私が夕食の準備を頼まれた。


キッチンに向かっていると、鍵を開けて玄関の扉が開く。
ユウリ
ユウリ
そこには、スーツ姿のショウタくん。


細身のリクルートスーツを纏ったショウタくんは、いつもより大人びて見える。


制服か部屋着姿のショウタくんに慣れていた私は、どきどきした。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……何?
固まっていた私を訝しく思ったのか、ショウタくんは凄む。
ユウリ
ユウリ
……スーツ、凄く似合ってる……
思わす本音がこぼれた。
大畠 ショウタ
大畠 ショウタ
……っ、なんだよ、それ
ストレートな言葉に照れたのか、素っ気ない。

ネクタイを緩めながら、私の横をすり抜ける。
ユウリ
ユウリ
あっ、今日私が晩御飯つくるから!

出来たら呼ぶね!
ショウタくんはひらりと手を振って自分の部屋に引っ込む。


その後ろ姿もキマっていた。


今さらながら、ショウタくんのカッコよさを再認識する。
ユウリ
ユウリ
(っと、意識しちゃダメだ、家族、姉弟なんだから)
軽く頭を振って、余計な感情を振り払う。

一旦落ち着くために紅茶でも飲もう、と、電気ケトルに手をかけた。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
ただいま
今度はハヤタさんだ。


ダイニングに顔を出す。
ユウリ
ユウリ
おかえりなさい!
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
あ、ユウリちゃん、ただいま
キッチンにいる私に軽く驚いていた。
ユウリ
ユウリ
今日は母の代わりに私がご飯係なんです。
もうちょっと待っててくださいね
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
そうなんだ、じゃあ俺も手伝うよ。
とりあえず着替えてくる
ハヤタさんは返事を待たずに行ってしまった。
ユウリ
ユウリ
……優しいよね……
当たり前のように「手伝う」と言ってくれるハヤタさん。


程なくして、部屋着に着替えてキッチンに戻ってきた。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
今日はなにつくるの?
ユウリ
ユウリ
えっと……
手分けして調理を再開する。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
これちょっと味見してくれる?
ハヤタさんが煮汁を掬ったスプーンを、私の口の前に差し出してきた。
ユウリ
ユウリ
えっ
ユウリ
ユウリ
(このまま!?)
あまりにも自然な振る舞い。

スプーンを手渡そうとする気配などなく、にこにこと「あーん」を促すハヤタさん。

遠慮する方が申し訳なく思い、恐る恐る口を開けた。
ユウリ
ユウリ
……あ、美味しい……ちょうどいい、です
本当は味なんてわからなかった。


ハヤタさんはふっと息を吐いて、私に向き直る。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
……もうそろそろいらないんじゃない?敬語
ハッとした。


怒ってはいないみたいだけど、少し威圧感を覚える。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
なんだかよそよそしくて、寂しいんだけど
ユウリ
ユウリ
あ……ごめん、なさい……でも、ハヤタさん年上だし……
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
普通『お兄ちゃん』に敬語使う?
言われてみればそのとおりだ。

『普通』の家庭なら、年上でも兄妹なら敬語なんて使わない。
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
もうちょっと馴れ馴れしく甘えてくれてもいいんだけどな
冗談ぽく笑っているけど、多分ずっと気にしていたんだろう。
ユウリ
ユウリ
……わかりました……じゃなくって、わかった!
大畠  ハヤタ
大畠 ハヤタ
うん、そんな感じ
嬉しそうに微笑むハヤタさん。


こちらもつられて笑顔になる。


また一歩、心の距離が近づいた気がして、気持ちが弾んだ。

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