22歳の春、あなたは退院した。
治療という治療はすべて行われた。いろんな薬を試したが、病気は完治しなかった。安静にしていれば自宅療養ができるようになったが、いつまた発作が起きるかわからないので働くことも無理な運動も止められた。それでも、あなたは退院まで漕ぎつけたことに胸を撫で下ろした。
あなたは自室の床に書類を並べている。
通帳を開くと、『ショウガイシャネンキン』と書かれた振込み欄が1年前から始まっていて、すでに100万弱の貯金があった。
廉が出て行った後、あなたはもう一度テーブルの上の資料に視線を落とす。改めて自分は誰かの保護下にいるのだと思った。
小さく溜息をつくが、リビングボードの上ににある鏡にうつる自分と目が合うと無理矢理笑顔を作った。病院で溜め込んでいたストレスはここにはなにもないのだから溜息なんてつく必要ないはずなのに。
お気に入りの家具や雑貨に囲まれながら、あなたは急に不安に襲われる。突然自由にされても自分には行き場がないことに、今気付いたのだ。
病気になってからどれだけ家族を泣かせただろう。もう二度と誰も泣かせたくはない。だからもう自分も泣かない。
これからの新しい人生で何が起ころうと、もう家族を泣かせない。半分途方に暮れながら、もう半分であなたは自分への叱咤を続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!