第2話

退院
22歳の春、あなたは退院した。
治療という治療はすべて行われた。いろんな薬を試したが、病気は完治しなかった。安静にしていれば自宅療養ができるようになったが、いつまた発作が起きるかわからないので働くことも無理な運動も止められた。それでも、あなたは退院まで漕ぎつけたことに胸を撫で下ろした。
あなたは自室の床に書類を並べている。
あなた

特定疾患に…障害者保険、障害者手帳…。これが年金か。

通帳を開くと、『ショウガイシャネンキン』と書かれた振込み欄が1年前から始まっていて、すでに100万弱の貯金があった。
永瀬廉
永瀬廉
そうやで、あなた。
あなた

あっ、廉。部屋、掃除してくれててありがとうね。

永瀬廉
永瀬廉
ええよ。な、あなた、今度の休みどこか遊びに行きたいところとかあるか?
あなた

そんなにいきなり体動かないよ。

永瀬廉
永瀬廉
せやな、退院したばっかりだもんな。
あなた

お散歩したい。あっ、廉、お弁当作ってよ!

永瀬廉
永瀬廉
ええよ。かわええ妹のためなら、何だって作ってやる!
あなた

ありがとう、お兄様!あと、体力がついてきたらお買い物にも連れて行ってね。

永瀬廉
永瀬廉
ええよ。何でも買えばええやん。昨日母さんに見せてもらったけど、すごいな、年金。あなた、俺よりも金持ちかもしれんな。
あなた

体張って稼ぎました!

永瀬廉
永瀬廉
税金って払うの大変やと思ってたけど、巡り巡ってあなたの治療や生活を支えるものになるんやったら、俺、もっと頑張って働くで!
あなた

お世話になります、お兄様!

廉が出て行った後、あなたはもう一度テーブルの上の資料に視線を落とす。改めて自分は誰かの保護下にいるのだと思った。
小さく溜息をつくが、リビングボードの上ににある鏡にうつる自分と目が合うと無理矢理笑顔を作った。病院で溜め込んでいたストレスはここにはなにもないのだから溜息なんてつく必要ないはずなのに。

お気に入りの家具や雑貨に囲まれながら、あなたは急に不安に襲われる。突然自由にされても自分には行き場がないことに、今気付いたのだ。
病気になってからどれだけ家族を泣かせただろう。もう二度と誰も泣かせたくはない。だからもう自分も泣かない。
これからの新しい人生で何が起ころうと、もう家族を泣かせない。半分途方に暮れながら、もう半分であなたは自分への叱咤を続けた。