第44話

第 44 話 平和
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2024/02/23 10:47


 2人は、沙織に案内された椅子へ腰掛ける。机には、お菓子と紅茶。

五条 悟
──とまあ、大体こんな感じかな


 海外留学の説明を終えた。
 勿論、呪術のことは伏せなければならないので、一般的な『海外留学』として、嘘を織り交ぜて説明をした。伊地知が作った資料を用いて。
 話せない内容の方が多いくらいで、果たして説明する意味はあったのかと、疑問に思うあなたであった。

沙織
へえ
沙織
これは、ちゃんとあなたがやりたいこと?
あなた
うん!
沙織
うん、じゃあ良いんじゃない!


 何度か頷く沙織。

沙織
問題も何も無いでしょ
沙織
楽しんでおいで!
あなた
うんっ、ありがとう!
五条 悟
直前の説明になっちゃってごめんね〜
沙織
全然!
沙織
突然担任の先生と来るって聞いた時はびっくりしましたけどね


 ハハッと楽しそうに笑う。

沙織
ま、すごい気さくな先生だったし
あなた
ごめん、五条先生敬語使えないから
五条 悟
いやいや使えるよ
五条 悟
でもまあお姉ちゃんなら良いかなって
あなた
なんで? 駄目でしょ


 教師と生徒とは思えない距離感。友達のような仲の良さに、沙織は声を上げて更に笑った。

沙織
仲良いなあ
沙織
私は別に大丈夫だよ〜
五条 悟
ほらぁ
あなた
沙織ちゃんは甘やかさないの!




 数分後──

沙織
五条さん、小さい頃のあなた見ます?
あなた
五条 悟
えー! 見たーい!
沙織
よしっ
あなた
ちょ、いいから


 沙織は椅子から立ち上がり、部屋から出ていったかと思うと、大きな箱を持ってすぐに戻ってくる。

沙織
実家にもっとたくさんあるんですけどねぇ


 「ほら、こっちこっち」
 とでも言うように、大きな箱を持ちながら手招きをする。
 五条が沙織に続いて床に敷かれたラグの方へ移動し、その大きな箱を囲むように座る。

あなた
……


 乗り気じゃないあなたは、嫌々遅れてやってくる。

沙織
好きに見てどうぞ〜
五条 悟
わーいっ、失礼しまーす


 沙織は、竹を割ったようなサバサバとした性格で気さくに溢れている。だからなのか、五条の無礼な言動を不快に思うことはなかった。
 よってこうして、五条・沙織VSあなたの構図が出来上がっているのも、不思議なことでは無い。

あなた
も〜……




あなた
沙織ちゃんお手洗い借りるね
沙織
どうぞ〜


 あなたが席を外す。
 沙織が次のアルバム取り出そうとした時、それに引っかかって1枚の写真が落ちた。

五条 悟
ん?


 小さい女の子2人と、その2人に比べるとやや大人の女の子1人──3人並んでピースをしている。何気ない日常の写真。

五条 悟
これは?


 五条はその写真を拾い上げて沙織に見せると、あっと驚いた表情を見せた。

沙織
懐かし〜……
沙織
これはまだ、あなたに会う前の……


 その写真を、大事そうに両手に取る。

沙織
……私、何年も前ド田舎に住んでたことがあって
五条 悟
へえ?


 「何故?」
 とでも言うように、こてんと首を傾げる五条を見て、沙織は言う。

沙織
うち、母がスピリチュアルでオーガニックなヤバい女なんで
五条 悟
あ〜、だからかぁ


 五条はどこか納得がいったように頷く。

五条 悟
さっきあなたも似たようなこと言われた。先生に両親は会わせたくないって
沙織
あははっ! 分かる分かる


 何度も頷く沙織。

沙織
あなたを迎えるまで一人っ子だった私は、学校行事……面談とか、事ある毎に、自分の母親を見る他人の目をずっと気にして生きていて
沙織
正直、あまりいい思いはしてこなかったんです
沙織
だからあなたにはそんな思いをして欲しくなくて
沙織
今こうして、私があなたの保護者の代わりを
五条 悟
ふうん……


 ──あなたは、こういう気遣いに溢れる沙織の愛を、全身で受け止めてきたんだろうな。

五条 悟
あなたが沙織のことを''大好き''な理由が分かった


 沙織は気恥しそうに頬を染めた。

沙織
……


 ──こんなこと言っておいて、今ここにあなたが居るのは、あんなお母さんが居てくれたおかげなんだけど。

沙織
……話が逸れちゃいました。この写真の話でしたね


 綺麗なネイルを施した彼女の美しい指先は、写真の先の女の子達を指さす。

沙織
この子達は、その当時よく家に遊びに来てくれてたお友達です
沙織
こっちが『ふみちゃん』で、こっちが『野薔薇ちゃん』
五条 悟
……


 五条は、その名前にやや既視感を覚え反応を示したが、沙織は気付かず話を続けた。

沙織
こっちの野薔薇ちゃんは、特にすごく懐いてくれて
沙織
2人とも可愛くて仕方なかったんですよ
沙織
ま、結局色々あって東京に戻ってきたんですけどね


 沙織は目を細めて、眉を下げた。
 それは決して、''幸せな思い出''の思いに耽けているような顔ではなかった。

沙織
──その日でした
沙織
あなたを見つけたのは

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