2人は、沙織に案内された椅子へ腰掛ける。机には、お菓子と紅茶。
海外留学の説明を終えた。
勿論、呪術のことは伏せなければならないので、一般的な『海外留学』として、嘘を織り交ぜて説明をした。伊地知が作った資料を用いて。
話せない内容の方が多いくらいで、果たして説明する意味はあったのかと、疑問に思うあなたであった。
何度か頷く沙織。
ハハッと楽しそうに笑う。
教師と生徒とは思えない距離感。友達のような仲の良さに、沙織は声を上げて更に笑った。
数分後──
沙織は椅子から立ち上がり、部屋から出ていったかと思うと、大きな箱を持ってすぐに戻ってくる。
「ほら、こっちこっち」
とでも言うように、大きな箱を持ちながら手招きをする。
五条が沙織に続いて床に敷かれたラグの方へ移動し、その大きな箱を囲むように座る。
乗り気じゃないあなたは、嫌々遅れてやってくる。
沙織は、竹を割ったようなサバサバとした性格で気さくに溢れている。だからなのか、五条の無礼な言動を不快に思うことはなかった。
よってこうして、五条・沙織VSあなたの構図が出来上がっているのも、不思議なことでは無い。
あなたが席を外す。
沙織が次のアルバム取り出そうとした時、それに引っかかって1枚の写真が落ちた。
小さい女の子2人と、その2人に比べるとやや大人の女の子1人──3人並んでピースをしている。何気ない日常の写真。
五条はその写真を拾い上げて沙織に見せると、あっと驚いた表情を見せた。
その写真を、大事そうに両手に取る。
「何故?」
とでも言うように、こてんと首を傾げる五条を見て、沙織は言う。
五条はどこか納得がいったように頷く。
何度も頷く沙織。
──あなたは、こういう気遣いに溢れる沙織の愛を、全身で受け止めてきたんだろうな。
沙織は気恥しそうに頬を染めた。
──こんなこと言っておいて、今ここにあなたが居るのは、あんなお母さんが居てくれたおかげなんだけど。
綺麗なネイルを施した彼女の美しい指先は、写真の先の女の子達を指さす。
五条は、その名前にやや既視感を覚え反応を示したが、沙織は気付かず話を続けた。
沙織は目を細めて、眉を下げた。
それは決して、''幸せな思い出''の思いに耽けているような顔ではなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。