第20話

帽子。
23
2022/01/11 16:42
あれから…
数ヶ月が経ち、夏休み前へ迫っていた。
如月アル
如月アル
…夏休みか。
あまりいい思い出がないな。
脳裏にあの二人の笑い顔が浮かぶ。
ダメだダメだ…もう振り切らないと…。
津野紡
津野紡
おーい。
そんな時、背中を叩いてきた人がいた。
津野さんだった。
あれから少しだけ気まずい感じにはなったものの、前よりもだいぶ関係は発展していて。
俺は周りを見渡し、津野さん以外に誰もいない事を確認した後、
如月アル
如月アル
帽子を外した。
津野紡
津野紡
…えいっ。
すると頭に手を伸ばされ、撫でようとしてきた。
如月アル
如月アル
ちょっ!?
急いでガードするが、
津野紡
津野紡
…むー。
機嫌を損ねてしまったようだ。
如月アル
如月アル
津野さん…?
津野紡
津野紡
…アルくんさぁ…。
津野紡
津野紡
夏休みといえば何だと思う?
如月アル
如月アル
…え…なんだろ?
津野紡
津野紡
…はぁ、アルくんはこれだからモテないのだ。
如月アル
如月アル
それ関係ある?!
津野紡
津野紡
あるよ、ばーか。
如月アル
如月アル
うーん…。
たこ焼き?
去年、たこ焼きパーティを一人でやっていた気がする。

なんと悲しいボッチなんだ…。
津野紡
津野紡
なんでそこで花火大会とか夏祭りとかがでてこないのかなぁ。
如月アル
如月アル
大会とか祭りってここら辺無いじゃん?
津野紡
津野紡
…ここらへんに無いから旅するんだよ。
如月アル
如月アル
旅するの?!
津野紡
津野紡
…いや、普通じゃない?
如月アル
如月アル
した事もないよ。
津野紡
津野紡
えー…。
幼い時から遠出をしたことのない俺には縁のない話なのだ。

誰も連れて行ってくれなかったから。
津野紡
津野紡
…じゃ、じゃあさ!
如月アル
如月アル
ん?
津野紡
津野紡
この機会に旅しよ!
如月アル
如月アル
いや…お金も無いし…。
行き先もわからないし。
如月アル
如月アル
何より行ってもなぁ…一人じゃなぁ。
津野紡
津野紡
…ふふん…アルくん。
津野紡
津野紡
君が一人で旅に行くんじゃない。
如月アル
如月アル
え?
津野紡
津野紡
…私が君を旅に連れて行くのさ。
如月アル
如月アル
…津野さんが?
津野紡
津野紡
そう。
如月アル
如月アル
そ、そうなんか。
如月アル
如月アル
でもどうして…?
津野紡
津野紡
…_どうせなら好きな人と行きたいだけだし_
如月アル
如月アル
…え?
津野紡
津野紡
…だから…もう…!!
すると津野さんは顔を真っ赤にしてどこかへ去ってしまった。
如月アル
如月アル
…旅かぁ。
…それも津野さんと。
…できるならしたいもんだな。
握っていた帽子を見る。

…何年も使っているから所々傷んでる。

今じゃ帽子は要らないのかもしれない。
だってもう一人じゃ無いから。
でも、一人の俺を守ってくれたこの帽子。


そして、津野さんと俺を繋いだこの帽子。
馬鹿にされたって構わない。


ずっと大事にしていきたい。


俺は帽子を抱きしめて、頭にかぶせた。

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