あれから…
数ヶ月が経ち、夏休み前へ迫っていた。
あまりいい思い出がないな。
脳裏にあの二人の笑い顔が浮かぶ。
ダメだダメだ…もう振り切らないと…。
そんな時、背中を叩いてきた人がいた。
津野さんだった。
あれから少しだけ気まずい感じにはなったものの、前よりもだいぶ関係は発展していて。
俺は周りを見渡し、津野さん以外に誰もいない事を確認した後、
帽子を外した。
すると頭に手を伸ばされ、撫でようとしてきた。
急いでガードするが、
機嫌を損ねてしまったようだ。
去年、たこ焼きパーティを一人でやっていた気がする。
なんと悲しいボッチなんだ…。
幼い時から遠出をしたことのない俺には縁のない話なのだ。
誰も連れて行ってくれなかったから。
すると津野さんは顔を真っ赤にしてどこかへ去ってしまった。
…それも津野さんと。
…できるならしたいもんだな。
握っていた帽子を見る。
…何年も使っているから所々傷んでる。
今じゃ帽子は要らないのかもしれない。
だってもう一人じゃ無いから。
でも、一人の俺を守ってくれたこの帽子。
そして、津野さんと俺を繋いだこの帽子。
馬鹿にされたって構わない。
ずっと大事にしていきたい。
俺は帽子を抱きしめて、頭にかぶせた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。